写真はイメージ(写真:Getty Images)
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 1970年に解散したザ・ビートルズの「新曲」として一昨年11月に発表され、話題となった「ナウ・アンド・ゼン」。故ジョン・レノンのデモテープ音源からAI(人工知能)技術を使って声を抽出する手法も注目された。レノンの生前の声を使った「新曲」としては他にも「フリー・アズ・ア・バード」(1995年)、「リアル・ラヴ」(96年)があるが、これらも同様にAIを使って声をより鮮明にし、再制作する構想があると一部メディアは伝えている。テクノロジーの進歩で、もう存在しないはずのビートルズの「新たな姿」を楽しめる時代。しかし、本当にこのままでいいのだろうか。

【写真】意外とシンプル。AIで再現した「ナウ・アンド・ゼン」のCDジャケットはこちら

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「これ、本当に複雑。ビートルズの“新曲”は聴きたいけど、AIのジョンにはすごい違和感というか、拒否感があるのよ。(略)私は受け入れられないし、それで時代遅れと呼ばれるなら甘んじて受け入れる」

 一昨年の10月27日、文筆家の門賀美央子さん(53)はXにこのように投稿した。「ナウ・アンド・ゼン」がまだ発表される前。「AIを使ったビートルズの新曲」というだけで、「AIをどう使うのか」の情報がまだない段階だった。

「最初はAIにジョンの声を学習させて、それをもとに新曲を作るのかなと想像しました。だったら絶対に受け入れられないと思ったんです」

 子どもの頃、母親の影響でビートルズのファンになった門賀さん。ビートルズという存在は「白いご飯のようなもの」だという。

「好き嫌いを超えて生活に溶け込んでいる感じ。『いちばん好きなアーティストは?』と聞かれても、あまりに当たり前すぎてビートルズの名前は出てこないかも(笑)」

 その後、発表された「ナウ・アンド・ゼン」でのAIの使われ方は、音質の悪いデモテープからレノンの歌声だけをAIで抽出、他のメンバーが楽器演奏などを重ねるというもの。予想が外れたことにはほっとしたものの、違和感も持ったという。

「曲自体はいいし、最新のテクノロジーを使った試みとして面白いとは思います。ただ、あくまでもデモテープでジョンとしては完成形ではなかったものを、本人の承認なく世に出していいのだろうかと。ビートルズ名義ではあるし、生きている2人(ポール・マッカートニーとリンゴ・スター)が代行する形なら『ギリギリあり』かな、とも思いますが」

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