人生の後半に差しかかる時期は、心身の変化が表れやすく、不安や葛藤、焦り、うつなど心の不調を抱えることも少なくない。

「ミッドライフ・クライシス(中年の危機)」。

 こう呼ばれて中年期特有の現象とされ、「第二の思春期」とも称される。20世紀の米国の心理学者ダニエル・レビンソンによって、広く知られるようになった概念だ。レビンソンは、人生の発達段階を、児童期と青年期(0~22歳)、成人前期(17~45歳)、中年期(40~65歳)、老年期(60歳以降)の4つに分類。その中で中年期は、自己の限界を認識し、過去の選択や未来に対する不安を感じることが多いと指摘。中年期の約8割が、ミッドライフ・クライシスを経験するとした。

「成功」を手放していいのか

 埼玉県に住むIT系の会社で働く女性(50)も、不安や葛藤と向き合っている一人だ。

「何が起きるかわからない人生を歩みたいと思いながら、一歩踏み出すのはやはり心配というアンビバレント(相反的な)の気持ち。そういう自分に対する、モヤモヤを抱えています」

 仕事に大きな不満があるわけではなかった。けれど、40歳を過ぎた頃から、このまま定年を迎えて年金で暮らし、年を取って死んでいく。そんな予定調和な人生に、物足りなさを感じ始めた。

 そこで、趣味で続けていたヨガを本格的に勉強し、人に教えられるまでになった。今ではヨガ講師の収入だけで月20万円近くある。体力的にまだ余裕があるうちに、会社を辞めヨガ一本で生活していきたいと思う。夫も背中を押してくれるが、それでも踏み出せないでいる。なぜか。

「私は氷河期世代ですが、競争を勝ち抜き正社員になれたのは、『成功者』と言われています。そのせっかく手に入れた成功を、手放すのは間違ったことなのかと、悩みます」

(AERA編集部・野村昌二)

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