
テレビの情報番組では、ここ数年ずっと物価高騰の話がされているのに、経済ニュースになると途端に円安歓迎の論調に変わる。この情報の偏りには強い違和感を覚えるが、その理由は極めて単純だ。経済ニュースの情報源が主に企業側にあるからだ。
物を売る企業側としては物価が高いほうが望ましいが、最終的に物を買う生活者にとって物価は低いほうが助かる。円安が進んでも輸出量自体が伸びていないのだから、「円安が企業にとって好ましい」というニュースは結局のところ「企業は物価が高いほうが好ましい」ということを言っているに過ぎない。その裏側には、物価高に苦しむ多くの個人がいることを忘れてはならないだろう。
しかし問題はさらに深刻だ。政策決定の際に政府が参考にするのは、主に企業寄りの有識者から得られる情報ばかりだ。だからこそ、長年「円安こそが正義」とされてきた。最近になって急激な物価高が起きて初めて生活者の視点が重視され始めたが、こうした危機的な状況にならなければ、生活者側の意見は聞き入れられない。有識者会議のメンバー構成を見れば、経済情報の偏りは一目瞭然だ。
「企業が儲かれば個人の給料が増えるから問題ない」といった主張を信じる人は、もはやほとんどいないだろう。円安の恩恵で多少給料が増えても、それ以上に物価が上昇しているため、多くの人が生活の苦しさを実感している。経済とはいったい誰のためのものなのか、改めて考える必要があるのではないだろうか。

※AERA 2025年5月5日-5月12日合併号