非公開会議の議事録から浮かび上がるのは、国の指示を拒絶せずに条件闘争に終始する「現実路線」に転じた新潟県の姿だった。
 

多くの道府県が強く反発する中、新潟県は

 規制委は2021年6月、新たに「甲状腺被ばく線量モニタリング」を導入する指針改定に先立ち、道府県向けにオンラインで説明会を実施した。

 このモニタリングは原発事故の直後に、主に子供を対象にして甲状腺の内部被ばく線量を測定するもので、東京電力福島第一原発事故後には国が測定したものの検査人数が1080人にとどまり、精度も低かったことから、その後福島県の甲状腺検査で多数見つかった小児甲状腺がん患者と事故の被ばくとの因果関係をめぐって続く“水掛け論”の一因になった。
 

 この甲状腺被ばく線量モニタリングについて、規制委は避難所を会場にして道府県の職員に担わせる腹づもりでいた。だが、負担増となる道府県からすれば簡単に受け入れられる話ではない。

 複数の道府県から開示された復命書(議事録)によると、多くの道府県の担当者が強く反発する中、新潟県の担当者は「本県では100カ所以上の避難所を開設する。それを2週間で回って検査するのは実効性の面でかなり疑問」と難色を示しつつも、拒否はせずに「人員が足りない。原子力事業者にやってもらいたいが活用可能か?」と要望。原子力規制庁の担当者も「電事連(電気事業連合会)には規制庁から依頼する。体制整備にあたっては事業者(電力会社)の活用を検討してほしい」と応じている。
 

避難の「支援」をめぐる東電との密室協議

 新潟県は2020年10月、東京電力ホールディングスと原発事故時の住民避難への「支援」などを約束する協力協定を締結した。

 事故を起こした当事者が「支援」する立場にあたるかは疑問だが、自然災害の救助に関する法制度を原発事故にも準用する形で住民避難の責任を自治体に負わせる現行の仕組みではそうなってしまう。検査や連絡調整などに多くの人員を必要とする道府県と、避難計画への協力が再稼働の後押しになる原発事業者の間で利害は一致し、本来守らなければならないモラルは置き去りになる。

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