
その写真には、軍艦島の65号棟の最上階にあった幼稚園の壁一面に、誰かが筆のようなもので書いた言葉がびっしりと残されていたんです。畳四畳分ほどの範囲でしょうか、乱文のような落書きのような、詩と呼んでいいのか分からない言葉が広がっていたんです。
初めは、よくある廃墟の落書きの一つかと思いました。でも内容を読んでみると、心に刺さるものがありました。
その詩の中で語り手は、自分自身を“島”のような立場に置いて、訪問者に語りかけているんです。そして最終的には何か唐突に、話題が軍艦島だけでなく、私たちが暮らしている町や社会へと視点が移動する。
書いた人が誰かも分からない。でも、なぜその人がこの詩を書いたのか、その背景や心情を想像すると、とても興味深いものを感じました。軍艦島の写真集はこれまでもたくさんありますが、まだ記録されていない何かを探していた中で、この詩を写真と併走させることで、物語とまでは言わないですけれど、軸になるのではないかと考えました。