言い換えると、短期国債の利回りは利下げ局面で下がりやすい一方、多くの人が抱えている10年債や30年債といった長期金利は根強い上乗せ分の影響で、債券価格は下がりやすい=利回りは高水準になることが予想されます。きっと、安全資産として米国債を抱えている人は少なくないと思うので、金利変動への備えが重要になるでしょう。
こうした金利変動が予想される環境の中で注目したいのが、物価の変動に合わせて元本が変動する物価連動国債(TIPS)です。名目金利の上昇リスクを抑えつつ、インフレ率に応じて元本・利息が改定されるため、実質的な購買力を守りやすいのが特長です。TIPSに投資をするETF(上場投資信託)もアメリカには上場しているので、リスク分散という視点で注目するのはありかもしれません。
「実質的なデフォルト回避策」
私がTIPSに注目する理由は、もう一つあります。最近、存在感を増している英の有名ファンド、Trojanが自社の Trojan Ethicalファンドの運用見解を、あるメディアに以下のように発言していたからです。現在は資本保全を最優先しつつ、運用資産の約35%を主に短期TIPSに振り向けることで、インフレヘッジ機能を取り込んでいるというのです。背景には、米政府が、大規模な政府債務問題をクリアするために、インフレ政策を取るのではないかという考えがあるようです。米政府債務の90%超が物価連動ではないことから、インフレが進行すれば名目GDPが膨張し、債務負担が相対的に軽減される──いわばインフレ政策は「実質的なデフォルト回避策」としての役割を果たします。Trojanは、インフレリスクと金利変動リスクとして金も保有しているとのことでした。
杞憂に終わるのか、それとも関税政策が金融市場、そして安全保障問題につながるのか……。有事の時の資産運用方針を固める必要がありそうです。