
「日本三大ドヤ街」の一つで、全国最大の日雇い労働市場があると言われる大阪市西成区の釜ケ崎。これまで、労働者たちによる暴動が繰り返し行われ、「治安が悪い」イメージを持たれることも多い。
ジャーナリストの大谷昭宏さん(79)は、読売新聞記者時代、劣悪な労働環境とピンハネが問題になっていた日雇い現場に「潜入取材」した。【前編】では「日当1900円」「きつすぎる仕事」「弁当はご飯と昆布のつくだ煮、ソーセージ一切れだけ」という当時の現実を紹介した。【後編】では、大谷さんが潜入取材後に体験した、西成でのある出来事について聞いた。発売中の書籍『西成DEEPインサイド』(朝日新聞出版)より一部抜粋・編集してお届けする。
※【前編】<西成「日当1900円」の仕事に「訳ありで来ました」 潜入取材でジャーナリストが見た日雇いの現実>より続く
【写真】日雇い労働者の暴動もたびたび起きた「釜ケ崎」の当時の様子はこちら
* * *
劣悪な労働環境と背景を明かす3回の連載「熱い夏」を載せた。手配師や業者は親会社から𠮟りつけられたようで、新聞社に電話がかかってきた。最初は「○○出さんかい」、次は「△△出さんかい」。
自分と先輩が勝手に書いたデスクの名前。両デスクから「お前ら何してんねん」と怒られたが、同僚は笑っていた。
もうほとぼりが冷めただろう。数カ月後、労働福祉センターに行くと、あのときの手配師に出くわした。「待て。この野郎!」。追いかけてきたが、逃げ切った。
外から想像するだけでなく、少しでも当事者に近づいて取材した方がいい。そう考えさせられる取材だった。
暴動で「袋だたき」にされた先輩も……
当時、カマだけで60カ所近い暴力団事務所があるとされ、覚醒剤の密売人もあちこちにいた。
暴動も10回以上、取材した。労働者が集まりだすと、作業着姿でその中に交ざった。取り締まる警察の取材だけしても、なぜ労働者が怒っているのかわからないからだ。派手なシャツを着ていたため、逆に目立って潜入捜査の警察官と疑われ、袋だたきにされた先輩もいた。