
マナーを知らせる大切さ
「日本の文化やマナーへの理解不足には、単に怒るのではなく、文字にして伝えていかなければなりません」
文化も言語も違う相手に「暗黙の了解」は通用しない。「飲食禁止」ならば、多言語表記のポスターやピクトグラムを作らなければ伝わらないし、禁止の理由も知らせるべきだという。
取材をしてみて、多くの神社が実際に外国人観光客との共存の道を探っていることを感じた。
地道にマナーを説明し続け、外国人観光客のふるまいが変わった神社もある。
熊本県八代市の八代宮では、10年前からクルーズ船で訪れる外国人観光客によるトラブルに悩まされていた。
境内の砂利を手水台に入れたり、拝殿前に牛乳をこぼしたまま放置したり、たばこのポイ捨てをしたり、無断で社務所や拝殿の中に入る外国人もいた。八代宮の禰宜が言う。
「中国語や英語表記の注意喚起の看板を出したことで、マナーの面はかなり改善された印象を受けています。手水台に砂利を入れていたのは、砂場で遊ぶ感覚で、悪意はなかったのではないかと思います」
記者がみたところ、外国人観光客による迷惑行為には、少なくとも3種類はありそうだ。
一つは日本文化やマナーの理解不足に起因するトラブル。神社を単なる写真映えスポットだと思ってはしゃぐ層はいる。また、SNSでバズるためか、奇抜な動画や写真を撮影する人もいる。現代的な「承認欲求」の暴走ゆえといえるかもしれない。歴史的、政治的な背景に起因するトラブルもある。長崎・対馬は韓国との国境の島だ。東京の靖国神社でも、中国籍の男性による落書き事件などが繰り返されている。
いずれの場合も、根気よく注意喚起し、伝えていくほかないのかもしれない。
観光立国のゆくえ
観光立国はこれからも進む。政府は2030年には現在の1.6倍の6千万人のインバウンドを受け入れる方針だ。
インバウンド客が増えていけば、日本の葬儀や墓参りも「オ~! エキゾチックジャパン!」と外国人観光客の好奇の目にさらされ、見知らぬ人に記念写真を撮られる……。想像すると胸がざわつくが、そんな日が果たして来てしまうのか。
「観光で経済を潤わせば、生活が観光の対象になる可能性はもちろんあります」(西川准教授)
ネパールのカトマンズでは、火葬場が世界遺産になり、観光客が集まっているという。日本にも「観光」が日常を侵食していく「覚悟」が必要なのかもしれない。
(編集部・井上有紀子)