
「康二と麻衣は夫婦だけど、まだ男女のままの形。個人が一緒の家にいるだけでつながりがなく、家族になり切れていない」
そうか、まだ「男女のままの形」なのか。それが幾度か小噴火を繰り返し、次第に夫婦になっていく。僕は黒木の本質を見抜く力に舌を巻いた。
麻衣は夫と離婚し、ひとりで出産する。無事に生まれた我が子の写真を手に元夫の両親のもとへ行き、その足で別れた元夫を訪ねる。子どもにも父親が必要だと考え、「過去のことなんだから、とりあえず子どもの顔を見て」と迫り、元夫には逃げ場がなくなる。
知人を介し、ひょんなことで“華ぼう”こと黒木華と食事をしたのは、彼女を阿佐ケ谷スパイダースの舞台で観たばかり、10年以上前のことだった。
丸眼鏡をかけ、内気に見えた少女は数年後、ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を日本人最年少で獲得、現在は日本を代表する俳優になったが、原点は今回のような舞台にある。
臆することのない伸び伸びとした演技と深い洞察で、黒木華は同世代の圧倒的な支持を得ている。