
5年に一度の年金制度改革が、今年予定されている。年金改正は、現役世代にとってもシニア世代にとっても、今後の先行きを左右する大きな問題。物価高に伴う賃金上昇も見込めない今、将来不安がつきないのが現実だ。先行き不透明なこの時代、ベストな年金戦略とは。年金世代のエピソードを元にひも解く。
「受け取れるものはなるべく早くから、と思って繰り上げたけど、今思えば早まったかも……」
こう話すのは、自営業の64歳女性だ。洋裁教室を営みながら、時折服の仕立ても受けて生計を立てている。女性は20代で結婚後、子どもを2人もうけた後に、30代で離婚。以来、洋裁教室を営みつつ、女手一つで子育てしてきた。家計は厳しかったが、「子どもに引け目は感じさせたくない」と、パートを掛け持ちしながら教育費を捻出した。無事に2人の子どもを大学まで行かせ、ようやく自分一人のみの生活費を賄えれば良いという平穏が訪れた。
とはいえ、コツコツ積み立ててきた貯金は、子どもの大学費用で大半が消えた。時代とともに洋裁教室の生徒は減り、昔は個人服のオーダーに始まり、学校の制服に祭りの衣装制作と忙しかった服の仕立ても、みるみる注文が減った。月に数件の仕立てと、週3、4日の教室運営で稼げる額は限られている。持ち家だから家賃はかからないが、毎月の固定費を除いたら、手元に残るお金はわずかだ。終身で受け取れる個人年金に入っていたことで、老後資金の足しは公的年金と貯金以外に少しはある。
「いつまで生きられるか分からないんだから…」
定年がない自営業とはいえ、いつまで今と同じように働けるかはわからない。物価高の影響で、食費も値上がりする一方だ。本当はもっと気前よく、孫にお小遣いもあげたいところだが、老い先を考えると渋ってしまう。年金の繰り上げ受給を決めたのは、そんな不安が深刻なものになってきた矢先のことだった。
同じく自営業の友人は60歳から繰り上げ受給を始めた。「いつまで生きられるか分からないんだから、もらえるものはもらえるうちに」という友人の言葉には、納得感もあった。
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