「私の場合、持病もなかった母親が、70歳で突然亡くなったことを考えたら、少しでも早くもらったほうがいいんじゃないかという気がして……」
年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)は、支給を早めた月数に応じて、1カ月あたり0.4%減額される。たとえば、65歳で受け取る予定の老齢基礎年金が年額81万6000円(月額6万8000円)の場合、60歳で繰り上げ受給すると年額62万160円(月額5万1680円)と、24%減額されるのだ。逆に70歳に繰り下げた場合には42%の増額、さらに75歳にまで繰り下げた場合には、実に84%もの増額になる。
女性は、繰り上げに応じて、月額5万円強の老齢基礎年金を受け取っているが、今になって後悔が押し寄せているという。
「何歳まで生きられるか分からないから受給を早めたけど、本当は何歳まで生きるか分からないからこそ、受給開始を延ばしたほうが賢明だったと思う。今のところ体調的にも大きな問題はないし、少なくとも65歳までは、年金をもらわなくても仕事の収入で暮らしていけたと思うと早まったなと……」
「寿命」という要因
女性が「今更後悔したって、もう遅いんだけどさ」と話す背景には、一度繰り上げ受給を決めると取り消しができず、生涯にわたって同じ額を受け取ることになるという繰り上げ受給のデメリットがある。会社員の場合には、老齢厚生年金もセットで繰り上げとなり、受給開始後に病気や事故で障害を負っても、障害基礎年金や障害厚生年金が受け取れない。こうした背景もあり、厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、老齢基礎年金の繰り上げ受給率は10.4%に留まるのに対し、65歳での受給率が87.4%と、65歳からの受給開始という基本形が圧倒的に多い。
多くの人を悩ませているのが、「何歳から年金を受け取り始めるべきか」という点だ。必然、「生涯にわたって受け取る総額を、できるだけ多くするには」という発想になる。だが、何歳から受け取り始めれば、年金額がもっとも多くできるのかという答えは、言わずもがな「寿命」という要因によって大きく左右されてしまう。