
トランプ関税の影響で、東京株式市場が乱高下している。それでも米国のエコノミストのノア・スミス氏は、「日本経済は底力があり復活できる」と自信を見せる。復活のカギを握るとしているスミス氏が挙げた3つの要素とは何なのか。
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――今の日本は賃金が少し上がったものの、物価はそれ以上に上昇し、スタグフレーションに陥っていると言う専門家もいます。また日本は生産性が低く、仕事への熱意を示すエンゲージメント指数が世界最低水準です。それでも日本経済は復活すると思いますか?
ノア・スミス(以下スミス) 思いますね。私が考えている解決策を教えましょう。従業員のエンゲージメント指数は「熱意・信頼・意欲」を示すものですが、日本が最低水準であることはよく知られています。この問題を解決するには、基本的に次の2つのことが必要だと思います。
まず昇進の機会を与えることです。これには賃金も含まれます。結果を出せば早く昇進して給料も上がる、というインセンティブが必要です。早く昇進したいという夢を持てば、人々は野心を持ち、未来に目を向けるようになり、より一層努力するようになります。会社に忠誠心を持つ必要はありません。
2つ目は、成果に基づく職場文化に移行することです。つまりデスクに何時間も座って仕事をしているということではなく、残業をすることでもありません。定時よりも1時間早く会社を出ても、家でやればいいのです。
アメリカでは、子どもがいる場合早く帰宅して、子どもが寝てからホームワーク(残りの仕事)をします。そして成果を出すのです。ですから、成果重視の経営への転換も、従業員のエンゲージメントを高めるもう一つの要素となるでしょう。
日本は今過渡期にあると思います。アメリカはジョブ型雇用なので、こうしてその仕事の専門性を高めて、転職してもエンゲージメントは高い。それは会社への忠誠心と関係ありません。仕事への熱意です。
生産性についてですが、日本はブルーカラー労働者の生産性は高い。日本の工場は非常に効率がいい。そこで働く労働者はホームワークがありません。自動車製造工場から、製造中の車を家に持って帰ることはできません。
1990~2000年代、日本はこのシステムをアメリカに教えました。シックス・シグマという経営法は米モトローラ社が開発したことになっていますが、日本の製造業のやり方を参考にしています。日本のホワイトカラーの生産性が低いのは、エンゲージメントが低いからです。
先ほど言った成果主義を今よりもっと取り入れて、エンゲージメントを高くすれば、自然とホワイトカラーの生産性も上昇します。
――今の日本経済復活に必要なのは、スタートアップであると言う人もいますが、アメリカと比べるとまだまだです。
スミス 大企業の資金力は必要です。起業が失敗に終わることは多いですが、資金不足で起きることが多い。企業に所属しながら新しい事業を立ち上げる「社内起業家」を指すイントレプレナーをもっと増やすことです。イントレプレナーは企業の経営資源を活用してイノベーションを起こし、企業の成長に貢献する役割を果たします。ですから、大企業もスタートアップも重要です。
――それでも足りない要素は何でしょうか。
スミス 3つ目のtrack(路線)です。日本に欠けているのは、輸出志向の外国直接投資です。台湾のTSMCが熊本に半導体工場を建設しましたね。それが好例です。しかも日本は完璧な条件がそろっています。高技能労働力が豊富で、教育制度も優れている。豊かな国にしては労働力が安い。サプライヤーが織りなす既存のネットワークも強固である。
中国と違って日本には自由な社会があります。この3つ目の要素が過小評価されてきたことは明らかです。この3つ目の路線を加えて、3本の路線にすれば、日本経済は復活します。これだけ条件がそろって、底力もあるのですから。日本の将来は明るいです。