
世界のほぼ全ての国・地域に一律で10%の相互関税を課すとともに、日本を含むおよそ60の国・地域を対象に高い税率の適用する方針を明らかにしたトランプ政権。各国からは非難の声が上がり、混乱が広がっているが、日本にとってはプラス面もあるという。国際ジャーナリストの大野和基さんに話を聞いた。
トランプ大統領の真の目的は…
米国のドナルド・トランプ大統領は、貿易相手国の関税率や非関税障壁を考慮して自国の関税を引き上げる「相互関税」の方針に基づき、日本には24%の関税を課すことを明らかにしました。乗用車は従来の2.5%に加えて25%の追加関税が発動され、合計で27.5%となります。
こうした突然の発表は、各国の反発を招き、混乱(カオス)を引き起こしています。株式市場では大きな混乱が生じ、「volatility(変動幅)」の拡大も予想されます。
しかし、トランプ政権の本当の目的は、日本やヨーロッパへの対抗ではなく、「世界の貿易システムを根本から変えること」です。そのためには、関税の引き上げがもっとも即効性があり、かつ、十分に高くなければ意味がないと考えているのでしょう。
本来であれば、関税を毎年2.5%ずつ段階的に引き上げていくのが理想かもしれません。しかし、トランプ大統領には「中間選挙」というタイムリミットがあり、任期中に自身の方針をすべて実行したいという思いから、急きょ高関税の導入に踏み切ったのです。
もっとも、トランプ大統領は突然こうした政策を打ち出したわけではありません。アメリカ経済の現状分析と政策立案を担うCEA(経済諮問委員会)のスティーブン・ミラン委員長が、昨年発表した「A User’s Guide to Restructuring the Global Trading System(グローバル貿易体制再構築の手引)」という論文が、トランプ経済の基本方針のもととなっています。
この論文では、「世界のトレーディング・システム(貿易体制)を抜本的に変えるべきだ」という主張が展開されており、ミラン委員長は「高関税から始めなければ意味がない」とトランプ大統領にアドバイスしたのでしょう。
歴史的にも、1930年のハーバート・フーバー政権下で「スムート・ホーリー法」による高関税政策が行われ、また、トランプ大統領のロールモデルである第25代大統領ウィリアム・マッキンリー(在任1897~1901年)も高関税政策を実施しています。つまり、高関税はトランプ大統領の“妙案”ではなく、過去の政策にも基づいているのです。