ぎゅっと甘みが濃縮されます
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関東でヤマトイモと言えばこれ
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自然薯。掘りだすのもなかなか大変
自然薯。掘りだすのもなかなか大変
春菊も美味しい季節です
春菊も美味しい季節です

 11月12日から、立冬の次候「地始凍(ちはじめてこおる)」 となります。時候通り、11月の中旬ともなると各地から初霜の知らせも増えてきます。夜間、大地が凍てつくような寒さになると、植物たちは糖分を分泌して凍結から身を守ります。このため甘みが強く濃厚な味に。いよいよ美味しい路地もの冬野菜の季節到来ですね。一方、山ではきのこの季節がほぼ終わる頃に、自然薯(じねんじょ)の季節となります。

■山芋?大和芋?長芋?山の芋と自然薯って同じ?ちがうもの? ややこしいことはなはだしいとろろ芋族

 紅葉前線が日に日に山地から平地へと降りてくる頃、山野では山菜の王様ともいわれる自然薯の季節を迎えます。自然薯(Dioscorea japonica)は世界中に600種ほどもあるといわれるヤマノイモ科ヤマノイモ属の一種で、全国に分布する日本原産種。古くから食用、薬用として使われてきました。長さは60cm~1m以上。寒冷で湿気が適度にある環境を好みます。土が熱くなるとそれを避けて地下茎を伸ばすため、地下でぐねぐねとうねって成長し、そのため天然ものは非常に粘りが強く、味も抜群ですが、収穫に手間がかかります。長く地下茎を伸ばすその姿と滋養強壮から「山うなぎ」といわれるほど。江戸時代には自然薯のことを「薯蕷」と表記してヤマノイモ、ヤマイモと称していました。

 ところで「ヤマイモ」といえばすりおろしてとろろにすることが多いため、別名「とろろ芋」とも呼ばれ、スーパーに行くとさまざまな名称と形の「とろろ芋」が売られていますよね。大和イモ、長イモ、銀杏イモ……皆さんはそれらの違いがわかりますか? 一体どれがどれでどんな特徴があるのか、よくわからないのでは? 実はそれは当然で、なかなか難物でこみいっているのです。まずは整理してみましょう。

 山芋は大別して①ジネンジョ、②ダイジョ、③ツクネイモ、④イチョウイモ、⑤ナガイモ、の5種類に分かれます。

①ジネンジョは先述した自然薯ですね。ちょっと値段が高級なので時に贈答用に箱入りになって売られたりもしています。
②ダイジョ(大薯)は沖縄や鹿児島、台湾などの南方産のサツマイモに似た形をしたヤマイモで、中身が紫色をしているのが特徴。
③ツクネイモ(捏芋)は関西でよく出回る品種で、ゴツゴツとした大きなジャガイモか里芋のような形をしています。粘り気が強く、食味も濃厚。もともと奈良に多く見られたことから関西ではこれを大和芋(やまといも)と呼びます。黒い皮の加賀丸芋、丹波山の芋、白い皮の伊勢芋などの種類があります。
④イチョウイモ(銀杏芋)は、別名仏掌芋(ぶっしょういも)ともいいます。 扁平で、イチョウの葉、または武骨な手のような形をしているためこれらの名があります。そして、関東ではこのイチョウイモが「大和芋」の呼び名で流通していることが多いのです。関東と関西では、ヤマトイモというと種類が違い、関東では④を、関西では③をヤマトイモと呼ぶわけです。なめらかで粘りが強く、とろろに最適です。ちなみに③のツクネイモのことは関東などでは「山の芋」という名で呼ぶこともあるのでややこしいですね。
⑤ナガイモは、現在最も流通量の多い山芋で、栽培される山芋の約2/3がこのナガイモ。生産地は青森と北海道の二道県で大半を占めています。水分が多く、比較的粘りが少ないため、とろろにするとさらっとしているので、単体よりは刺身の山かけやあえものに向きます。形もまっすぐで比較的扱いやすいので、サクサクとした歯ざわりを生かして酢の物や煮物や、サラダなどにもされますね。ちなみに、ナガイモ(D. opposita)のことを現代ではショヨ(薯蕷)とも言い、本来の江戸時代以前の薯蕷=ジネンジョとはまったく違うのに、細長い外見が似ているために混同されてしまう、というここにもややこしい事態が。

 この五種類のうち、③④⑤は中国から伝わったもの。②のダイジョは東南アジア原産でヤムイモ(Dioscorea 属の食用種)の1種。①のみが日本原産のヤマイモです。

 こうして整理してみても、まだ混乱してきますね。できれば名称をきちんと統一してシンプルにし、味のちがいや種類の違いを一目瞭然にわかりやすくしてほしいものですが……。

■扱いづらく収穫しづらかった「山のうなぎ」自然薯。近年栽培技術が確立されてきています

 近年ではそもそも自然薯が掘れる自然環境が減少している上、自然薯掘りは崖崩れを誘発するなどの注意喚起がなされ禁止されている場所も増えているため、もともと流通量が少ない天然の自然薯はなかなか手に入りづらくなっています。

 でもご安心ください。山口県柳井市の政田自然農園が1974年に確立したクレバーパイプ栽培が全国に普及、土作りから優良系統の品種改良、病害対策などのノウハウが研究され、決して容易ではないが充分流通に耐える生産体勢が出来上がりました。

 まさに11月からが自然薯の出回る時期。

 自然薯は漢方では「山薬(さんやく)」と呼ばれ、言わずと知られた滋養強壮のほか、肺や腎臓の働きを助け、新陳代謝を活発にする効能や便秘の解消、高血圧や糖尿病などの成人病にも、ヌルヌルした粘り気のもととなる成分が消化吸収を助けて胃腸病にもよいとされ、また目や耳の機能向上にすらよい効果があるといわれています。

 ところで、一部の説として、江戸時代の貝原益軒の『養生訓』に、「自然薯を食べると精がつきすぎて男女関係が乱れるので食べるのは風紀上よくない」と、自然薯の強すぎる効能を記した箇所がある、という話が流布していますが、これはまったくのデタラメですのでご安心を。

 どうもデタラメの元は以前テレビの情報番組でそういう嘘が放送されたせいのようです。「養生訓」を通して読めば、そうしたことは書いてないとわかるのですが。

■自然薯だけにあらず!多くの野菜の旬はこれからです

 さて、鍋物や暖かいものが恋しくなるこれからの季節、旬を迎えるのが春菊(シュンギク)。特に湯豆腐やすき焼きには欠かせませんね。

 春の菊と書くのは、花が咲くのがキク科には珍しく春なのでそういう名前ですが、食用としてはこれからがまさに旬。産地は大阪や千葉などの都市近郊が大産地となっています。ちなみに、独特の苦味や香りが欧米では食用として敬遠され、美しい黄色い花が観賞用として人気なのだとか。

 その他にも、ほうれん草、白菜、青梗菜、ブロッコリーなどの葉物。サツマイモや里芋、ニンジンや大根、レンコンなどの根菜類、クリや落花生も旬の時期。

 寒くなってゆく季節、しっかり食べて寒さに備えましょう。

 かつては東海道などの街道筋の峠の茶屋の名物として提供され、旅人の疲れを癒したという自然薯。最近では栽培地も増えて、自然薯を擬人化したゆるキャラ「ジネンジャー」なんていうキャラクターまで登場するほど。さっぱりとしたいつものナガイモとはまたちがう、濃厚で薫り高い自然薯、この時期がご賞味のチャンスです。

※配信後、記事の内容を一部修正しました。