この間に遠井は必死になってダイヤモンドを一周し、球宴では1960年第2戦のカールトン半田(南海)以来史上2人目のランニングホームランとなった。

 さほど広くない広島市民球場で生まれた思わぬ珍事に、全セのベンチでは王貞治(巨人)が「ゴローちゃん、足が速いね」と爆笑しながら冷やかし、ランニングホームランの前に安藤のタイムリーで2点目のホームを踏んだ中暁生(中日)も「あやうく追い越されるところだった」とジョークを飛ばす。

 だが、“一世一代の大激走”でエネルギーを使いはたした遠井は、ゼエゼエと肩で息をするだけで、言葉ひとつ返すことができなかった。

 当初は代打の1打席のみの出場予定だったが、ランニング3ランに感動した川上哲治監督(巨人)の計らいで、ライトを守って引き続き出場した遠井は、6回1死二、三塁の2打席目でも一、二塁間を抜く逆転タイムリーを放ち、計5打点を挙げる活躍でMVPに選ばれた。

 鈍足が幸いして本塁セーフをかち取るという珍プレーの主人公になったのが、巨人時代の村田修一だ。

 2016年9月21日の中日戦、阿部慎之助の犠飛で3対0とリードを広げた巨人は、なおも2死一、二塁で、ギャレットが右中間フェンス直撃の二塁打を放つ。

 二塁走者・坂本勇人に続いて、一塁走者・村田も三塁を回る。大西崇之三塁コーチは村田の鈍足を承知のうえで、「ちょっと微妙なタイミングだったが、2死だったし、思い切って突入させた」という。

 だが、好返球が捕手・杉山翔大のミットに収まり、タイミング的にはどう見てもアウト。村田は必死のスライディングを試みたが、敷田直人球審はアウトをコールした。

 ところが、村田本人はもとより、大西コーチ、坂本、さらには高橋由伸監督も「タッチしていない」とアピールすると、リプレー検証の結果、なんと、判定はセーフに覆った。

 VTRを見ると、送球を受けた杉山が本塁ベースを履くようにしてタッチの動作をした時点で、村田の足はまだ本塁に到達しておらず、空振りした杉山のミットが勢い余って本塁の左側に大きく振れた直後、遅まきながら村田が生還していた。

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