THE MATCHを終え引退に揺れた武尊の心を引き戻したのがロッタンの存在。一度は決まるも中止となり、スーパーレック戦で敗れ再度引退の危機もあったが、そこから勝利して復活し、自身の手で本来の流れに戻して遂に実現となる。

「スーパーレック選手と試合をやれたことで、すごくよい経験ができた。あの試合でONEの戦い方だったりルール、環境やグローブ、いろいろなものに慣れることができた。その後に1試合やって、ONEのことをちゃんと理解した上でロッタン選手と戦えるのはすごくよいタイミングで時が来たなと思っている」

 試合の延期がプラスに作用したと、さらに武尊は言葉を続ける。

「ONEで2連敗したらもう終わりだと思っていました。(9月は)そういうプレッシャーもあったし、タン・ジン選手もまだ若くて絶対負けられない試合だった。昔だったら倒されたら多分すぐ倒し返しに振り回していたけど、そこからまた削る作業をして丁寧に戦って最後倒すことができた」

 ダウンのビハインドとなったタン・ジン戦の2R、武尊は1Rから放っていたカーフキックを追加し、ストレートにフック、ボディへのヒザと丹念に攻撃を散らして削り、逆転ノックアウト。殺傷力だけに頼らない冷静さと緻密な組み立てを見せた。

 武尊は12月の会見で「(ロッタンとは)引き寄せ合う運命だったなと思う。この試合の次のことは一切考えていなくて、自分の格闘技人生の全てを出し切るつもりです。世界最高の殴り合い、壊し合いをやりたいと思ってます」と発言。ロッタンも「時が来たと感じている。(武尊の試合を見て)怖さを感じるぐらいで、緊張を覚えました。本当に強いと思っています。でも、それに負けない準備をしてきているので最高の試合をお届けしたい」とコメントを返した。

 両者のファンを公言するONEチャンピオンシップのチャトリCEOは「55~60%」でロッタン有利を予想。だが武尊は仕上がりに「150%」と自信を見せ、強い覚悟と決意を伴うモチベーションでロッタンを上回る。

 激闘型ではあるものの“打ち合う”というより自分が望む場面で一方的に猛攻するロッタンに対し、武尊は自身が目論む殴り合いに巻き込むことができるか。

「世界で一番盛り上がる、面白い試合」――その上でのKO勝ちを狙う。(文/長谷川亮)

●プロフィール
長谷川亮/1977年、東京都出身。雑誌編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行う。そのほか各種コラムの執筆、ドキュメンタリー映画『 琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』( 2019)の監督など。

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