たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など

 一方で、今春の連合による春闘の賃上げ要求は、加重平均で6.09%と32年ぶりの高水準となった。多くの人の賃金が上昇すれば人件費も上がり、当然物価も上昇する。もし最低賃金だけが据え置かれたままならば、最も生活が苦しい人たちがさらに苦しくなるという矛盾が生まれてしまう。政府の目標達成に必要な年率平均7.3%の上昇は高すぎるように思えるが、連合の要求水準が約6%であることを考えると、少なくともそれと同程度でなければ、物価水準の上昇に勝てない可能性がある。

 最低賃金の議論は経済合理性だけでなく、「我慢を強いられているのは誰なのか」という視点も必要だろう。制度として最低ラインを設けることで、すべての人が安心して働ける社会を目指すべきではないだろうか。

「最低賃金を上げると、地方の生活を支える産業・商業インフラが崩れる」という声もある。一見もっともらしい反論だが、それは「あなたが我慢して今の賃金で働いてくれれば、他のみんなが助かるんですよ」と言っているのと同じではないだろうか。

 本当に地方経済が崩れるなら、一部の労働者だけに大きく負担させるのではなく、多くの消費者が少しずつ負担する必要があるだろう。

AERA 2025年3月24日号

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