すでに銀座や京都の土地を買い漁る中国資本

【アトキンソン】まあ、そうですが、いまの経済状況でも厳しいのは変わりません。

 仮に日本が復興にお金を払うとしたら、株価が暴落するなかで、唯一の頼みは国債ですよね。でもすでに普通国債残高は累積し続けていて、2024年度末には1105兆円に上ると見込まれています。経済の規模に比べて、既に世界最悪の財政です。

 戦後行われたように、国債という借金を棒引きにしてもらったうえで、さらに国民の貯金を強制的に吸い上げるしかありません。それは復興予算を絞り出すための一つのシナリオで、できないこともない。仮にそこまでやったとしても、全然足りないでしょうね。

 ましてや台湾のように、「みなさんからの募金で賄います」なんて規模ではない。そう簡単には国内調達できない、ということです。だから、諸外国から調達するしかないんです。

 では、どこに頼る? 世界一、二の経済大国であるアメリカと中国に頼るしかありません。アメリカは多少出してくれるでしょうけど、よその国のことにあまりお金を出さない国なので、期待薄です。残るは中国。日本を買いに来るでしょうね。

 すでにいまだって、銀座の土地を買い漁ったり、京都の町家が並ぶ一角を買い占めて再開発したりしているでしょう? そんな現在の中国資本の勢いを踏まえれば、日本が中国に買われることは十分にありうると思いますね。

【養老】中国が無償で支援してくれるわけはないし、かなり厳しい条件をつけてくるでしょうね。日本経済にそれを突っぱねる元気もなさそうです。

巨大地震をきっかけに自立性を失う日本

【アトキンソン】そうして日本中に中国マネーが投下されると、中国人資本家たちは日本社会における存在感を増しますし、発言力も強くなります。しょうがなく言いなりになって、何年かやり過ごしてごらんなさい。「気がついたときには中国の属国になっていた」となりかねない。それが、私の描く最悪のシナリオです。日本人はそんなこと、考えたくないでしょうけど、「100%ない」とも言い切れません。

【養老】日本人は、嫌なことを考えないんですよ。戦争のときもそうだったでしょ。「神風が国の危機を救ってくれる」と信じていた。本気で信じていたんですよ。

【アトキンソン】現実問題、アフリカのように、中国による“植民地化”が進んでいる地域があります。南アフリカ共和国やセネガル、ルワンダなど、中国は債務超過が深刻化している国に、巨額投資を続けているのです。

一見すると支援のようですが、実質的には植民地化ですよね。中国企業がこれらの国の根幹に関わるビジネスに参入して、中国依存が進むように仕掛けて、じわじわと骨抜きにしているんです。日本も他人事ではありません。

中国の影響を排除したいのであれば、IMFから調達するということになるかもしれませんが、そうすると日本経済がIMFの管理下に置かれることになります。いずれにしても日本が自立性を失うことには変わりありません。

(養老 孟司:解剖学者、東京大学名誉教授)
(デービッド・アトキンソン:小西美術工藝社社長)

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