『告知事項あり。』児玉和俊 主婦の友社
この記事の写真をすべて見る

 不動産屋の情報を見ていると、「告知事項あり」と記載された物件を目にすることがある。いわゆる「事故物件」というもので、多くの人が「事故物件」と聞いてまず想像するのは、過去に事故や事件が起きて人が亡くなった物件だろう。

 著者の児玉和俊氏は、約7000室の物件を内見してきた元不動産管理会社の営業マン。彼は日本で初めて事故物件を専門に"オバケ調査"を実施する会社を起業した人物だ。事故物件となった部屋は当然借りられにくくなり、オーナーの頭を悩ませる。たとえその部屋で何も起こっていなくても、だ。そこで児玉氏は事故物件を科学的に調査し、何もなかった場合はそのように報告書を作成し、異常なしの証明書を発行することで物件の関係者たちの力になっているのだという。

 オバケを否定する一方で、児玉氏は「実際にオバケを発見する」ことも目的として掲げている。不動産管理会社に勤めていた頃に、理由のつかない不可思議な現象を幾度も目にしていたためだ。では、実際に児玉氏が目の当たりにしてきた不可思議な現象とは、どのようなものなのだろうか。『告知事項あり。』(主婦の友社)では、児玉氏が実際に体験した事故物件にまつわるエピソードが紹介されている。

 まず触れられるのは、児玉氏が賃貸不動産の管理会社に転職して1年半ほど経った頃に起こった出来事だ。

 不動産売買会社の人間から、ある物件を紹介されたという児玉氏。早速、物件を見て回っていた彼は、空き室らしい302号室が気にかかり、キーボックスの中に入っていた鍵を使って室内に入った。瞬間、飛び込んできたのは、壁中に何かが貼られていたような跡。児玉氏は室内で、ある紙を見つけ、その正体を知る。

「これ、御札でしょ......。まさか......全部これが張られていた? こんなに大量に?」(同書より)

 児玉氏はすぐさま物件を紹介してくれた担当者に連絡。302号室での出来事を報告すると、担当者は驚くべき事実を口にした。

「302号室は開かずの間なんだよ。今の建物所有者はマンションを購入してまだ1年足らずだけど、その人も302号室の室内は見たことがない。元から鍵が引き継がれてないんだよ」(同書より)

 担当者によると、302号室では2件続けて首吊り自殺があったという。児玉氏の前になぜ鍵が現れたのか、室内に大量の御札が張られていたらしい理由は何なのか。その答えはわかっていない。

 続いて紹介するのは、浴室に関する不思議な出来事だ。ある日、児玉氏が担当している物件の入居者である、80歳の老女・田村さんから連絡が入った。彼女いわく「お風呂の天井の穴から男性が室内に入ってくる」のだという。

 天井の穴とは、点検口のこと。後日、田村さんとその娘が見守る中、児玉氏が実際に点検口を調べたところ、外から人が入り込む余地はないという結論に達した。

 結局、何の問題もないということで部屋を出ようとした児玉氏は、玄関に積み上げられていた靴の山を崩してしまう。児玉氏が崩れた靴の山を直そうとすると、娘は児玉氏を外に押しやり、扉を閉めた。

 児玉氏は、靴の山の中に一足だけ、男物の革靴があったのを見逃さなかった。気になった彼はもう一度部屋に入って調べさせてもらおうとしたが、娘が児玉氏を中に入れてくれることはなく、当日のうちに田村さん宅から退居の連絡が入ったという。翌朝、児玉氏が再び田村さん宅を訪れると、部屋の中には何もなかった。あまりにも異様過ぎるスピードでの退居だ。

「あのとき一瞬見えた黒い革靴は誰のものだったのか。浴室の点検口ではないにしても、男性が出入りしているという田村さんからの訴えは本当だったのか。娘さんの豹変と、常識を外れた速さでの引っ越しは何を意味していたのか。その後、あの母娘はどうなったのか。結局、今も何ひとつわからないままです」(同書より)

 最後に、事故物件にハマった営業マンについてのエピソードにも触れておこう。児玉氏は、ある不動産売買会社の担当者・佐久間さんと知り合いだった。佐久間さんは急に事故物件をメインに取り扱うようになり、事故物件以外は目もくれないようになっていたそうだ。

 そんな佐久間さんが、ある日こつ然と姿を消してしまう。後日、佐久間さんの上司が、佐久間さんが失踪する直前に「訪問する」と話していた事故物件へ向かってみると、なぜか建物自体がすでに取り壊されて存在していなかったそうだ。手がかりは消え、現在も佐久間さんは消息不明であるとのこと。

 同書にはこのように、恐ろしくも興味深い事故物件エピソードがいくつも登場する。事故物件で起こる不可思議な現象に興味はあるが、実際に体験するのはちょっと......という人は、同書を読んで児玉氏の追体験をしてみるといいだろう。間違っても、好奇心に駆られて軽い気持ちで「告知事項あり」物件には手を出さないように気をつけてほしい。

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼