
人間生きていればからだの不調とともにメンタル不調を経験するものです。そんなとき、漢方も役に立つ、ということはあまり知られていません。30年超にわたり漢方診療をおこなう元慶應義塾大学教授・修琴堂大塚医院院長の渡辺賢治医師は「実際には多くの患者さんが訪れ、漢方治療を受けています」と話します。漢方医学では、今目の前に表れている症状には必ず原因があると考え、推理小説のように、遡って原因を読み解いて、どこにアプローチするかを決定するといいます。
【写真】渡辺賢治医師の新刊「メンタル漢方 体にやさしい心の治し方」はこちら
渡辺医師は著書『メンタル漢方 体にやさしい心の治し方』(朝日新聞出版)を発刊しました。同書の「はじめに」から、前編に続き後編をお届けします。
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メンタル不調を漢方で治療するメリットはいくつかあります。
1 メンタル不調だけでなく、全身の体調がよくなる。
漢方薬は、複数の生薬から成り、成分も多数存在します。そうした漢方薬の成分が脳内で働くことは種々の実験データで示されています。ほかの成分は胃腸の働きをよくして食欲を増したり、エネルギー代謝を改善して疲れをとったり、とさまざまな効果が同時に期待できます。メンタル不調とからだの不調は相互に影響し合いますから、体調がよくなることでメンタル不調の改善も期待できます。
2 煎じ薬で治療すると細かい調整が可能なので、そのほかの悩みも一緒に解決できる。
漢方では西洋医学的に診療科が分かれているわけではなく、全人的に診るので、どのような症状にも対応します。例えばPMS(月経前症候群)の症状として、イライラする、不安といったメンタルの不調と胃腸の具合が悪い、などの身体症状が同時に起こることもあります。西洋医学的にはイライラを抑制する精神科の薬と胃腸の働きを改善する内科の薬を併用するのが通常ですが、煎じ薬の場合には、生薬を加減することで、一つの薬で同時に治療することが可能です。さらに生理前に悪化するニキビなども同時に改善します。