
今年、東京大学や京都大学など難関大学を突破した合格者たち。栄光をつかんだ生徒の素顔とともに、熾烈な受験競争を支えた親たちの献身から合格の秘訣をひもといてみる。
安本珠理さん 三輪田学園→筑波大学 人文・文化学群
「中高一貫校で高校に上がれないんじゃないかと、先生との個別面談を組まれたくらい、勉強は得意ではありませんでした。高校の定期テストで最下位をとったこともあって、いかにして筆記試験を受けずに大学に入るかを考えていました」
筑波大学の人文・文化学群に自己推薦型のAC入試で合格した安本珠理さんは、教科書や単語帳の暗記で問題を解くという学びに価値を見出せず、高校2年生の夏までまったく勉強に身が入らなかったという。父親の芳勝さんは苦笑しながら振り返る。
「本人にまったく危機感がなくて必死なのは親ばかり。高校2年になったあたりから毎週家族会議をして発破をかけるんですが、響いている様子もなく、当時は本当に参りました」
安本さんは小学生のころから土日はクラシックバレエ、ピアノ、水泳と習い事の日々。中学受験も経験した。母親の貴代さんがその意図をこう話す。
「今は男女関係なく人前で話す機会が多い社会ですし、この先は益々求められる。そう考え、舞台度胸をつけてほしいという思いからいろんな習い事をさせていました。中学受験についても、これまでとは違う電車通学だとか世界を変える経験を積んでもらいたいという思いがあった気がします」
両親主導で中学受験を乗り越えたが勉強に前のめりになることはなく、熱心だったことといえば、K-POPアイドルの推し活で家族を巻き込んでライブに遠征するほど。
中学1年時には貴代さんが宿題のチェックを欠かさなかったことで成績を保っていたが、妹の受験が始まり貴代さんがそちらにかかりきりになると成績が下降。数学のテストの点数が1割に満たなかったこともある。
高校2年時の評定平均は「3・3」。指定校推薦も狙えず、どこに進学できるのかと芳勝さんは毎晩、受験サイトを見あさった。あらゆる情報を収集し、安本さんのやる気を引き出すべくパワーポイントでスライドを作った。
「当初は一般受験を考え、『目指せMARCH』を合言葉に、最小限の学科で受験できるところは〇〇と〇〇がある。ここなら英検も生かせるなどと、ひたすらプレゼンしていました」(芳勝さん)
安本さんは「崖っぷちにならないとやらないマイペース」「なんだかんだうまくいくだろうと楽天的」な性格で、芳勝さんの創意工夫もむなしく、安本さんの「やる気スイッチ」は入らなかった。