
このため、翌2024年の6月ごろから、コメ不足が叫ばれ始めた。8月8日に南海トラフ地震の臨時情報が出されると、消費者の一部が買いだめに動いたため、お盆過ぎにスーパーの棚からコメが消えた。首都圏ではこの状態が9月中旬まで続いた。
このとき、農水省は「9月の本格的な収穫シーズンに入れば落ち着く」との姿勢を崩さなかった。政府は食料危機に備え、国内需要の1.5~2カ月分にあたる100万トンの備蓄米を持っている。それでも動こうとはしなかった。
当時、農水相だった坂本哲志衆院議員は8月30日の会見でこんな発言をしている。
「備蓄は不作などでコメが足りなくなる場合に出す。今回は在庫は十分にある」。そのうえで「新米の出回りも踏まえれば、慎重になるべきと考えています。一部店舗においてコメが棚にないということが見られますが、全体的に見て小売店あるいはスーパーに対して、コメが並び始めたと考えています」。
農家や農協に配慮
備蓄米を出せば、コメの価格が下がることも農水省は懸念していた。当時、記者の取材に首脳の一人は「いまここで出したら、生産者も流通業者も大変なことになる」と悩ましい表情を浮かべていた。やっと米価が上がってきたのに、農家や農協のことを考えれば、ここで下げるわけにはいかないという立場を重視したのだ。
確かに9月下旬からスーパーにコメは並び始めた。ここまでは農水省の思惑通りだったが、想定外だったのは価格は下がるどころか、上がり続けたことだった。
(経済ジャーナリスト・加藤裕則)
※AERA 2025年3月10日号より抜粋

