親戚のおじさんの言葉に「怖いっ!」

「ギリ単位が足りなくて、半年間余分に通って卒業が9月になったんです。4年生のうちに絶対に取れそうな単位だったのに、なんか足りなくて。『社会に出たくない』みたいな気持ちがあったのかもしれませんね」 

 もっとも、この「留年」こそが、移動生活の入り口だったようだ。

 鈴花さんは、しばし考え込むと、ふいにこんな話を始めた。

「進路を決める高校1年生の頃に、親戚のおじさんから、『公務員か銀行員か教師になれ。そうしなきゃ、お前は幸せになれない』みたいなことを言われて、『怖いっ!』って思ったことがあったんです。そのおじさんは、銀行に勤めていて、娘さんは弁護士で、そういう仕事に就くことが『ちゃんとする』ことで、それを求められている感じがしたんです」

あのまま東北に居続けたら

 両親は何も言わなかったが、「親戚のおじさん」が進路に煩(うるさ)く口をはさんできたらしい。

「自分を高く見積もりすぎかもしれないけど、たぶん頑張ればそういう職業にも就けたと思うんですよ。それを蹴って、なんだかよくわからないほうに来ちゃった。もしも、そういう職業に就いたら、心が病んで死んでしまいそうだったし、あのまま東北に居続けたら、親戚のおじさんみたいな人たちの視線にからめとられてしまう気がしたんです」

 そして、つぶやくように言うのだった。

(構成/ライター・インベカヲリ☆)

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