Sean Baker/1971年、米ニュージャージー州出身。映画監督。監督作に「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」(2017年)、「レッド・ロケット」(21年)など
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 本年度米アカデミー賞6部門にノミネートされた「ANORA アノーラ」。ストリップダンサーのアノーラが、ロシア人富豪の息子と恋に落ちる現代版シンデレラストーリーだ。監督のショーン・ベイカーが「巨匠として敬愛している」という監督・是枝裕和と語り合った。AERA 2025年3月3日号より。

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──映画には社会の問題に目を向けさせる力がある。不穏な現代、「映画にできること」を二人はどう考えるのだろう?

是枝裕和:あまり「映画で何ができるか」を考え始める時代はよくないと思うんです。いま大学で映像を教えていると「これを作ることでどういうメリットがあったんですか」「何か福祉などの法律が変わったんですか」と聞いてくる学生がいるんですよ。そうでないと映画の意味がない、というような問いがけっこう出てくる。映画製作においても観客においても「これを見ることでどんな得があるの?」という空気をヒシヒシと感じるんです。でも僕らはそういう目的で映画を作っているわけではないし、逆にそういう目的を持つとその目的にかなわないシーンはおそらく削られてしまうんです。「アノーラ」でロシア人富豪の息子イヴァンがあんなふうに床を横滑りしながら登場しない(笑)。

ショーン・ベイカー:ははは。

是枝:そういうところを面白がられなくなるのは映画としてつまらない。「誰も知らない」公開時に劇場でQ&Aをしたとき一番嬉しかった感想は「映画を見終わった夜、家に帰る途中の公園で遊んでいる子どもがいた。いままでだったらただの風景だったけれど『あれ、この子たちはどこに住んでいるのかな。親はどうしているんだろう。何時頃帰るんだろう』とすごく気になってしまった」というものでした。もうこれでいいのだと僕は思った。映画がもし何かの役に立ったり社会に果たせる役割があったりするのだとすればそのぐらいで十分だと。

社会問題や政治を内包

ベイカー:僕も是枝さんに100%同意します。何か目的を持って何かを説くような映画は効果的ではない。僕はそういうアプローチをしないし、是枝さんもそうですよね。映画作りにおいて政治的であることは必ずしも悪いことだとは思っていません。私たちはともにおのずと社会問題や政治を内包し、かつそこに解釈の余地があり、議論を着火させるような映画作りをしているんじゃないかなと思います。なによりも映画はエンターテインメントであることを忘れてはならない。同時にメッセージ性があることも大事で、是枝さんの作品はまさにそうであると思います。

是枝:いや、まさに「アノーラ」こそ、そういう作品ですよ。

ベイカー:是枝さん、新作はいつ拝見できるのですか?

是枝:去年は配信ドラマ「阿修羅のごとく」にかかりきりだったんです。今年映画を撮影するので、来年には何かしら作品をお届けできると思います。

ベイカー:楽しみにしています。アメリカにお越しの際はお知らせください。

是枝:連絡します!

(構成/フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2025年3月3日号より抜粋

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