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生計のために働かざるを得ないが、副業先が想定した環境、あるいは理想的な環境である保障はどこにもない。自分のスキルを生かせる環境かもわからない。どうすれば、副業によるリスクを回避できるのか。専門家に聞いた。
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副業は「明るい面」ばかりではない
昨年4月、愛知県の男性(当時60)の死が名古屋北労働基準監督署によって労災認定された。
男性は2019年12月から岐阜大学工学部の研究員と、測量大手会社「パスコ」の技術社員を兼業。2021年5月に自殺した。大学では上司から厳しい指導を受け、会社では通常はチームで担う新規事業を1人で負う立場に置かれ、理解があった入社時の上司が全員転勤して孤立感を深めていたという。
副業の、必ずしも明るいばかりではない側面が明らかになってきている。明暗を分けるのはなんだろうか。
副業の動向に注視するパーソル総合研究所は2018年、2021年、2023年と「副業の実態・意識に関する定量調査」を行った。それによると、企業の副業容認率は50.9%→55.0%→60.9%とアップ。しかし副業実施率は、前編で紹介した独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査結と同様に少なく、10.7%→9.1%→7.0%と微減している。
リアリティ・ショックが約3割
注目すべきは、「副業者におけるリアリティ・ショックありが27.7%」「副業者のオンボーディングに力を入れていない企業が63.7%」という結果(2023年)だ。
リアリティ・ショックとは「副業先で行う仕事や実態について、採用前の期待やイメージと相違があること」、オンボーディングとは「人材の受け入れから定着・戦略化までのプロセス」である。
調査結果を分析したパーソル総合研究所の中俣良太研究員は、リアリティ・ショックの約3割という数字は、「決して少ない数とは言えないのではないか」と話す。
リアリティ・ショックは、副業者本人のストレスや過重労働につながり、副業先のメンバーにも悪影響を与える可能性があることが、この分析で明らかになっているからだ。