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2月24日、ロシアがウクライナへ全面侵攻に踏み切ってから3年を迎えた。米国のトランプ大統領がウクライナの頭越しにロシアとの交渉に乗り出すなど、状況はより不安定さを増している。「ソ連崩壊」から「米国の金融危機」などを予言したフランス人歴史家・エマニュエル・トッド氏は現代の国際情勢をどう見ているのか。過去の記事を再掲する。(この記事は「AERA dot.」に2024年2月29日に掲載されたものを再編集したものです。本文中の年齢、肩書等は当時のもの)。
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家族制度や識字率、出生率に基づき、現代政治や社会を分析し、「ソ連崩壊」から「米国の金融危機」などを予言した、フランスの歴史家エマニュエル・トッド。大統領選を控える2024年のアメリカが崩壊しつつあると指摘する彼は、今のアメリカを「2つの概念」を用いて言い表します。その概念とはいったい何か? 2月13日発売の最新刊『人類の終着点――戦争、AI、ヒューマニティの未来』(朝日新書)から一部を抜粋・再編して公開します。
エマニュエル・トッド:アメリカで起こっていることを理解するために、私が導入しなければならなかった概念が一つあります。
それは「ニヒリズム(虚無主義)」という概念です。この言葉は、スペルで正確に理解しておきましょう。ニヒリズムとは「NIHILISM」と書きます。
この言葉は、1930年代にドイツが陥った狂気を理解するために使われた概念です。もちろん、今のアメリカで起きていることは同じではありません。このニヒリズムが意味するように、戦争や破壊に魅了され、現実の破壊や否定を始めることは、本当に危険なことです。
たとえば今、西側諸国がウクライナでの戦争に勝てないことは明らかです。すでに決着がついていると私は考えます。ロシアは時間をかけて、できる限りのことをするでしょう。
私の予測では、この戦争の終息には5年かかると考えています。5年というのはわれわれにとっては長い時間です。