「給与天引きは国の立場から見ればすばらしい徴税システムです。確実に税金を徴収できて、国の運営に回されていくのですから。社長をしている私にすれば『ビジネスモデルとして優秀』とも表現できます。ただ、負の側面もあります。納税者の税金に対する意識が希薄化し、税金のことを考えずに生活できるようになると、国民は政治に対して具体的な声を上げることができなくなります。がまんできるラインを超えるともちろん不満は爆発する。ただ、増税には反対でも税金の知識が少ないので、反対を叫ぶだけの人ばかりになってしまう」

NISA一大勢力

 今がまさにそれだ。SNSでは政府に対する汚い言葉であふれている。こうした閉塞した状況を打ち破る可能性が「投資」にはある、と楠社長はいう。

「自分の立ち位置が悪くなるような政策には誰もが反対します。たとえば自分の資産に影響が出るような政策が案として出た時点で猛反発するでしょう。NISAが5千万口座(国民の半数)を占めるようになれば、ものすごい力になると思います」

 ちょうど今回の取材日の後、「金融所得課税30%」をキーワードにSNSが紛糾していた。与党絡みの話ではないが、株式関連で微妙な発言をした議員は投資好きのアカウントから袋叩きにされていた。狭いSNSでの炎上である。だが、これがNISA5千万口座時代……つまり国民の約半数が投資を始めたら、一大勢力となる。(経済ジャーナリスト・向井翔太)(編集部・中島晶子)

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