くすのき・ゆうじ(62)/1962年生まれ、広島県出身。86年、広島大学文学部卒業後、日本ディジタルイクイップメント(現日本ヒューレット・パッカード)入社。96年、シカゴ大学ビジネススクールでMBA(経営学修士)を取得。同年、世界有数の経営コンサルティング会社A.T.カーニー入社。99年、DLJディレクトSFG証券(現楽天証券)入社。2006年から代表取締役社長(撮影/写真映像部・東川哲也)

 楠社長は年120万円までのつみたて投資枠でも、年240万円までの成長投資枠でも満額を買っている。銘柄を聞きたい。

「投資信託は『楽天全世界株式インデックス・ファンド(楽天・VT)』と『楽天・全米株式インデックス・ファンド(楽天・VTI)』を旧NISA時代から積み立てています。成長投資枠は値上がり期待より配当重視でJTなどを長期保有しています。金融機関だからといって特別な投資はしておらず、ごく普通です。現金のまま置いておくよりずっといい」

暴落を知らない若者

 金融庁資料によれば、24年9月末のNISA口座は2508万。日本人の5人に1人程度だ。米国の確定拠出年金(401k)は3人に1人、英国ISA(個人貯蓄口座)は人口の42%相当というデータがある。

オルカン(『eMAXIS Slim 全世界株式〈オール・カントリー〉』の略称/登録商標)が流行語になるって大きな変化ですよ。08年のリーマン・ショックを体験していない人たちが大人になっています。日経平均の一時7千円割れを見た世代の中には投資にネガティブな人もいますが、若者はそういった気持ちが薄いようです」

 今や日経平均4万円前後。投資に対する拒否感のない若者が増え、世代交代が進めば──。

 楠社長は学問的な切り口からも投資家のサポートを模索している。実は今回取材を申し込んだのは2月13日に発売された『楽天証券社長と行動ファイナンスの教授が「間違いない資産づくり」を真剣に考えた』(日経BP社/広島大学大学院の角谷快彦教授との共著)の内容が興味深かったからだ。経済学と心理学を融合した行動ファイナンスの知見をもとに「投資で失敗する理由」や誰でも実践できるシンプルな資産形成のアイデアを平易に紹介している。

 まず気になったのは「日本人はどうして預貯金が好きなのか」。歴史的な背景の説明から始まる。日本の株式取引の中心は東証だが、その前身である「東京株式取引所」は明治初期の1878年に開設された。戦前には地主や商人などの富裕層に加え、若者も集まって株式投資が流行した。新1万円札の顔になった渋沢栄一の「合本主義(不特定多数の人々が協力し合って大規模事業を推進)」もブームを後押ししたようだ。

 第2次世界大戦での敗戦で景色が変わる。個人はほとんどの資産を失ってしまった。ボロボロになった日本を復興すべく、国は産業界に多額の資金を流入させる政策を打つ。そのために預貯金も推奨されるようになる。戦後のインフレを抑制する目的もあり、政府は「救国貯蓄運動」を推進。預貯金には相応の金利が付けられた。

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ノーリスク10%時代