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市民の抗議デモに揺れるイラン。一家の主イマン(ミシャク・ザラ)は念願の昇進を果たすが、仕事は逮捕者の起訴状を国の指示でねつ造するものだった。さらに娘たちはSNSを通じて国に不満を募らせる。そんななかイマンの護身用の銃が消えた──。アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート作「聖なるイチジクの種」。モハマド・ラスロフ監督に本作の見どころを聞いた。
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2022年9月、イランでヒジャブの着用が正しくないと警察に連行された22歳のジーナ・マフサ・アミニが亡くなる事件が起こりました。その後「女性・命・自由」をスローガンにした抗議運動=ジーナ運動が大きく広がりました。当時、私は映画製作によって国家安全保障に反する罪を言い渡されて刑務所にいたのですが、私の担当職員が「自分が嫌いで自殺を考えたこともある」と言ったのです。彼は自分の職務に嫌悪感を抱き、良心の呵責に悩まされていた。彼の言葉がずっと心に残り、この映画を作ろうと決めました。
主人公イマンは自分に葛藤しながらも家では父権主義的に振る舞います。紛失した銃を探すために妻や娘たちを厳しく尋問もする。彼や妻はこれまでの体制システムのなかで生きてきた世代。しかし娘たちはSNSで情報を得て、現代的で自由な生活をのぞんでいる。この世代間ギャップはこの2年でより深まり本作では悲劇につながります。ひとつのイデオロギーにしがみつくことが家族までも犠牲にする状況を伝えたかったのです。
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ジーナ運動は歴史上最高に大きな転換点だったと思います。全世代の女性たちが勇気を出して街に出て声を上げた。女性だけではありません。これまでなんとか体制のなかでうまくやっていこうとしていた男性たちも仮面を外し人権問題に対し声をあげ始めたのです。
本作を作ったことで執行猶予ではなく実刑が確実になるとわかり私は国を出ました。私は映画という芸術を自分の抗議を表現し、疑問や対話のきっかけを生む手段と考えています。イランだけでなくあらゆるシステムのなかにいる人に、自分がそのなかで行っていることに個人的な責任はあるのか。自分の行いに責任を持てるのかを問いかけたいと思っています。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2025年2月24日号
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