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ロシアによるウクライナ侵攻開始から2月24日で丸3年になる。トランプ米大統領の就任で何が変わるのか。今後、世界の争いはどうなるのか。エマニュエル・トッド氏の独占インタビューの後編をお届けする。AERA 2025年2月24日号より。
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──ロシアのウクライナ侵攻からまもなく3年を迎えます。
私が見る限りウクライナは限界に近いですよね。私は軍事の専門家ではありませんが、おそらく軍事的な敗北の後に、ウクライナ政権の崩壊が訪れると思っています。昨年出版した『西洋の敗北』(文藝春秋)のあとがきにも書きましたが、ロシアはウクライナ最大の港湾都市オデーサを征服し、東部のハルキウを奪い、そこからドニプロ川東岸まで進み、ドニプロ川東岸のキーウを征服することでロシアにとって従順なウクライナ政権を樹立することを目的にしていると思っています。
ロシアにとってこの戦争を始めるのは、簡単なことではありませんでした。だからロシアは完全な勝利しか受け入れないでしょう。これほどまでの軍事努力は、今後しないし、できないでしょう。人口動態的に見て、出生率が低下し、少子高齢化が進むロシアがこの規模の戦争をもう一回するなどということは考えられないからです。
アメリカが介入することでロシアとウクライナの間の戦争を止めるのだ、とトランプが見せかけようとするかもしれません。しかし、この戦争の真の対立はアメリカとロシアなのです。そして今後ロシアは自らの目的を達成するまで戦争を続けるでしょう。また、そこには交渉などというものはないでしょう。ロシアは完全なる勝利を求めているからです。もちろん、核戦争のリスクなどから逃れるための見せかけの交渉はあるかもしれませんが。
今ヨーロッパの人々は、「ロシアこそが帝国主義的な敵だ」と考えているわけですが、戦争が終結する時に、二つのショックを受けると考えています。一つ目のショックは、ロシアが勝利してしまうということです。
二つ目は、ロシア軍の即時停止です。多くの西洋の人々が想像しているように、ロシアが西ヨーロッパまで侵攻するなどということはあり得ません。ロシア軍はおそらく目的を果たせば、すぐに行動を止めるでしょう。そこで、西洋の人々は、自ら科した制裁によって自分たちの経済を意味なく破壊してしまったことに気づくわけです。
そうなってようやく、私たちの敵は、果たしてロシアなのか、それともアメリカなのかという疑問も生まれてくるわけです。特にヨーロッパの中心にいるドイツなどは、こういった問題にぶち当たることになるわけですね。「いったい誰が私たちの敵なのか」と混乱するわけです。