自分自身をターゲットに

 働く女性が増えたことや価値観の多様化で美容室にも変化が起きている。

「忙しいヒトのための美容室」というキャッチコピーで、カット20分、カラー35分の施術サービスを全て予約で請け負う「時短美容室」が着実な支持を集めている。2016年に千葉県柏市に1号店をオープンし、現在都内と千葉県内に3店舗を展開する「cut&color smart」(以下、スマート)だ。利用客は女性がほぼ9割で、40〜50代が中心という。運営するのは「For the Next Generation(FNG)」(東京都世田谷区)。社長の横田昌史さんと、副社長の内山亜矢子さんはともに東大卒でコンサルタント会社出身。元同僚の関係だ。「人口減少問題解決にビジネスとして挑戦する」ことを目的に起業。その第1弾として「スマート」を立ち上げた。

cut&color smartを運営する「For the Next Generation(FNG)」(東京都世田谷区)の横田昌史社長(左)と副社長の内山亜矢子さん(写真/cut&color smart提供)

「予約できる店は、高くて遅い」が、「早くて安い店は、順番待ちで時間が読めない」。だから、仕事や育児、介護などで忙しい人が気軽に美容室を利用できない。この潜在的ニーズに応えようと、2人はそれまで縁のなかった美容業界に挑んだ。その動機について内山さんはこう強調する。

「働いている女性が圧倒的に足りない資源はお金よりも時間です。施術に何時間もかけたり、待たされたりするなんてもってのほか。スマートのコンセプトは自分自身をターゲットに想定したサービスといっても過言ではありません」

 創業を検討していた当時、ヘアサロン業界はQBハウスなどの主に男性向けの格安店が拡大する一方、飲み物を提供したり、マッサージをしたり、ネイルサービスもしたり、と過剰サービスに傾く女性向け高級美容室に二極化していた。子育てと仕事の両立を図る内山さんのような忙しい女性にとって、美容室の高級志向は「時間のほうが大切なのに……」とモヤモヤを抱えることが多かったという。

 スマートのサービスメニューにも内山さんの生活実感が大きく反映されている。内山さんは白髪を染めるため2週間に1回、カラーリング専門店に通っていたが、施術に毎回1時間前後かかるのを負担に感じていた。

「私にとってはスーツを着て仕事をするのと同じぐらい、カラーリングは欠かせない身だしなみの一つですが、そこに時間をかけたくはない。生活の動線上にある美容室でカットもサクッと済ませたい、とずっと考えてきました。それでカットとカラーを主なメニューに設定しました。うちだと両方で1時間以内に収まり、一般の美容室の半分ぐらいの時間で済みます」

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スキマ時間にカットやカラー