地方再生、地域の活性化。よく聞く言葉だけど、はたしてそれは有効な議論につながっているのか。『地域再生の失敗学』は経済学者の飯田泰之氏が専門の異なる5人の論者を迎え、連続講座風に語り合った本。専門的な議論も多いのだけど、なにせ「失敗学」ですからね。苦笑しちゃう話も多い。
 たとえば地域活性化事業の専門家・木下斉氏は昨今の定番アイテムにNOを突きつける。〈財政状況も厳しい中、全国各地の自治体が多額の税金をかけて実施する経済政策の切り札が「ゆるキャラ」だ、とかいわれてしまうと、頭が痛くなるわけです〉〈昨今のB級グルメも同じですね。B級グルメの巨大イベントを開くと、確かに何十万人と来場者があります。しかし、そのためには設営や管理、警備に莫大な運営費用がかかりますが、焼きそばやホルモン関連製品はせいぜい五〇〇~六〇〇円です〉
 いわれればたしかにね。〈むしろ投資回収できない事業は、地域にとってはマイナス効果をもたらすだけで、やればやるほど行政の財政支出は増加し、かといって民間部門の経済力は拡大することなく、結局のところは衰退します〉
 同様のトンチンカンは少なくないらしく、〈成功している商店街にはアーケードがあるからといって、まず屋根からつくってしまったりします(笑)〉と地域経済学の川崎一泰氏は批判し、〈ほとんどの商店街の活性化は、「まちおこし」になってしまっていて〉〈いわば「商店街の盆踊りで何をやるか」の議論と一緒なんです〉と千葉市長の谷俊人氏は指摘する。
 それじゃいったいどうするのか。起死回生の切り札があれば誰も苦労はしないわけだが、〈これまで我々が追い求めてきたのは短期的な効率に偏っていたと思います〉(過疎問題を研究する林直樹氏)という指摘は重要だろう。林氏が提唱するのは、山間部の集落がまとまって麓や近隣の小都市へ移転する「自主再建型移転」。
 人口減少社会を前提にした、住民主体のこういう地道な議論が大事。〈ゆるキャラは「まちおこし」ではない〉ってことです。

週刊朝日 2016年10月14日号