「文章を書く際の心構えは、小説も論文も同じです。誰にでも伝わる言葉で、誤読を避け、文が一つの意味に定まるように書く。その姿勢は大学院時代から変わりません」
『地図と拳』は旧満州の架空の都市を舞台に日露戦争前夜からの約半世紀を描く、600ページ以上にわたる歴史長編だ。一方、昨年刊行された『君のクイズ』(朝日新聞出版)は現代を生きるクイズプレーヤーたちを主人公に、その思考の軌跡を追う、エンターテインメント色の強い小説。作品によって、時代もテーマ設定もがらりと変わる理由をこう語る。
「僕は小説を、自分自身が想像もつかないようなことについて考えるツールと捉えています。ずっと同じことを書いていると退屈してしまう。今まで考えもしなかったことを題材にしたほうが楽しいんです」
「SF作家」「ミステリー作家」など、媒体によってさまざまな肩書がつけられるが、分野への執着はない。
「哲学を学んでいたこともあり、ジャンル分けとはそもそもが不正確なものだと思っています。作品の構造で分けるなら、SFでありながらミステリー、ミステリーでありながら純文学ということも理論上は可能。なので、こだわりはありません」
並外れた知的好奇心で、既存のカテゴリーを越境し続ける。
(本誌・松岡瑛理)
※週刊朝日 2023年1月20日号