医師偏在は医療サービスの質に影響する(撮影/写真映像部 松永卓也)※写真はイメージです
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 首都圏では充足し、地方では足りないイメージがある医師数だが、人口10万人あたりの医師数では、最も多いのは徳島県335.7人、次いで高知県335.2人、京都府334.3人と続く。最も少ないのは埼玉県180.2人、次に茨城県202人、千葉県209人。医師の偏在が浮かび上がった。AERA 2025年2月3日号より。

【図を見る】人口10万人あたりの医師数が最も多いのは四国のあの県・・

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 埼玉の医療は十分に機能しているのか。

 東京都と接するベッドタウンで、人口60万人の埼玉県川口市では、医師不足により医療サービスが行き届かないケースが出始めている。川口市にある埼玉協同病院の増田剛院長は「いざというときに医療が機能していません」と切実さを訴える。

 今年1月、全国と同様、川口市でもインフルエンザ患者が急増したときだ。

「1月半ばのある日、救急患者の受け入れを半分以上断りました。川口市内のある病院では24時間で救急搬送を25件も受けましたが、36件断りました。先日は80代の患者さんの搬送先が7時間も見つからない異常事態もありました。私たちの病院も1日で、17件受けて30件断りました。コロナ禍で一番大変だったときと似た状況です」

 病院だけでなく、クリニックも受診しづらくなっている。

「クリニックの発熱外来もパンクしています。予約を入れようとしたら、80人待ちだったから受診を諦めたという患者さんもいました。患者を全員診察するのに深夜2時までかかった話も聞きました」(増田院長)

 東京に近いなら、通勤ついでに都内の病院に受診すればいいのではと思うが、そうはいかないという。

「救急搬送されない事態が起きていますし、これからは高齢になり都内まで出かけられない人も増えていきます」

 増田院長は言う。

「川口市を含めた南部医療圏(川口市、蕨市、戸田市)は人口80万人規模で、山梨県や福井県と同じ規模ですが、ここには県立病院も大学病院もありません」

 ただでさえ医師不足なのに、その数を維持するのさえ厳しい。市内の基幹病院は、東京の大学病院から多くの医師が派遣されている。だが、それも不安定だ。各病院の院長は毎年3月、医師の確保に悩むという。

「当院では多くの診療科を自前の医師でまかなおうと努力していますが、一部の科は大学病院から派遣された医師に頼っています。でも大学病院の医局に入局する医師が少なくなると、『来年から派遣できない』と言われます。『何とか続けてください』と頭を下げるのが院長の仕事です。そういう構造のなかで、医師の需給は成り立っています」

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大学病院も余裕なし