1月18日に行われた大学入学共通テストで、男子受験生がトイレに行った際、男性監督者が一緒に個室内に立ち入った事案が発覚し、問題となっている。報道によると、男子生徒は大阪公立大学で試験を受けたが、途中で腹痛に見舞われて多目的トイレへ。不正防止の理由から、監督者が同室する状態で用を足したという。入試におけるカンニング問題は根深いものがあるが、トイレの中まで監視する必要はあるのか。大手進学塾や自身が運営する学習塾で2万人以上の小中高生を指導してきた実践教育ジャーナリスト・矢萩邦彦氏に、カンニングの実態と対策について聞いた。
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「私が最もカンニングを目にしたのは、中学受験業界にいたときでした」
こう話す矢萩氏は、複数の大手進学塾で20年近く講師を勤めた経験を持つ。試験監督をするなかで、あの手この手で不正をはたらく小学生の姿を数多く見たという。
ある生徒は、六角形の鉛筆のすべての面に、びっしりと文字を書きこんでいた。濃い緑色や茶色の鉛筆に黒のサインペンで書き込めば、遠目からは気づかれにくく、もしバレそうになれば消しゴムで消せばいい。
だが小道具の持ち込みなどはかわいいもので、なかには“完全犯罪”を決行する知能犯もいた。
「見た目はそっくりなのに成績にギャップのある双子が替え玉受験を試みたり、試験の時間が午前か午後かに振り分けられるタイプの模試で、午前に受験した友達から回答を買って午後受験に臨んだり……。小学生だと思ってなめてかかっちゃダメですよ」
とりわけ不正の温床となっていたのが、トイレだ。塾の模試は試験監督をギリギリの人数で回しており、試験中のトイレは付き添いなしで自由に行かせることが多い。塾側としては一定数カンニングが起きてもしょうがないと割り切っており、むしろ不正に気付いても保護者とのトラブル防止の観点から注意しない運用にしているケースもあるという。
しかし、入試本番となるとそう甘くはない。トイレに行ったらその後は試験会場に戻れないルールにしたり、試験中に挙動不審と判断した生徒はその時点で不合格にしたり、という学校もある。特に私立の中高一貫校は、一度入学したら6年間の集団生活を送ることになるため、学校側が「他の生徒に悪影響を及ぼす子は合格させない」と神経質になるのも無理はない。