だが実際、前述の仲介サイトを利用しているのは、“業”として大々的に行っているダフ屋や“転売ヤー”だけではない。
不正転売に関する法律相談を毎月のように受けるという徳永弁護士によれば、「過去の判例を見ても、アーティストのファンというケース、しかも20代30代の若い人が多い」というから驚かされる。「大ファンだからこそ、少しでもいい席で見るために、大量のファンクラブ名義を所持して申し込み、当選したなかからベストな席を選ぶわけです。そして自分が選ばなかった席を高値で売る。そういうケースが非常に多く見受けられます」
実際、同法の施行後、初の摘発者となったのは、当時24歳の女性だった。判決文によれば、「アイドルグループの公演を良い席で見たいなどと考え、転売されているチケットを複数入手するなどした上で、偽造身分証明書を利用して公演に入場するほか、残りのチケットを転売」する行為を繰り返したという。
懲役刑や損害賠償を求められる可能性も
なかには利ざやを稼ぐ目的ではなく、定価にシステム使用料などの手数料のみを上乗せして出品しているケースも見られるが、徳永弁護士は「厳密に言えば、定価を超えていれば違法ということになる」と言う。「また、継続的であることが要件ではないので、たとえ1枚でも、1回でも転売すれば、法には触れます。もちろん、継続性が高いほど、また金額が大きければ大きいほど、刑事裁判になり、懲役刑を受けるリスクは増大します」
同法で定められている罰則は、「1年以下の懲役、もしくは100万円以下の罰金」。だが、「悪質な場合は、他の罪状も加算されます」と徳永弁護士。例えば、昨年5月に札幌で逮捕された当時28歳と27歳の女性は、いずれも100を超える名義を所持して転売を繰り返していた。「そもそもファンクラブの規約上は、一人につき一つのアカウントしか登録できないのであるから、本件は、規約を遵守する者がチケットに当選する確率を著しく減少させる悪質な犯行であり、犯情は芳しくない」として、他人の会員情報を使って不正に電子チケットの購入権利を得ていた電子計算機使用詐欺などの罪にも問われ、それぞれ懲役2年と2年6カ月(いずれも執行猶予3年)、罰金50万円を言い渡されている。