女性宮廷画家ヴィジェ=ルブランが描いたマリー・アントワネットの肖像画。リボンやレースの繊細なタッチが特徴的だ。劇中にも同じドレスが登場する(写真:akg-images/アフロ)

 池田が「ベルばら」の下敷きにしたのはオーストリアの作家シュテファン・ツヴァイクが1932年に発表した『マリー・アントワネット』だ。中野は2007年に新訳を担当した。

「ツヴァイクは伝記作家で史実に基づいていますが、表現力と形容がものすごくうまいので小説的なおもしろさがあるんです」

 さらに漫画やアニメの作画にも影響を与えているのがマリー・アントワネットの肖像画だ。ドレスの質感の繊細なタッチも美しい。描いたのはエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン。原作漫画にも登場するが、女性の宮廷画家なのだ。

「女性宮廷画家はすごく珍しいのですが、彼女はアントワネットに気に入られ、ほかの貴婦人たちにも引っ張りだこでした」

図書館に「ベルばら」

 当時の肖像画はいまでいうプロモーション的な意味合いも大きかったと中野は言う。

「実際、アントワネットの顔立ちはそんなに美人ではなかったのではと思います。ただ寒冷地出身ならではのきめ細やかな肌を持ち、スタイルや所作、話し方などすべてを含めて『美人』だった。しかもヴィジェは同性ならではの感性で3割増しに描いてくれる(笑)。だから人気だったのでしょう。ぜひ『ベルばら』を起点に小説や絵画へと興味を伸ばしてもらいたい」

 劇場アニメの完成披露試写会に招待され、見事なオスカルの扮装で注目を浴びていたコスプレイヤー・MOMOは23年、オスカルのコスプレでフランスを訪れたときの出来事が忘れられないと言う。

「エッフェル塔前で撮影をしていたら若いフランス人の女性が『あなた、オスカルよね?』と声をかけてきたんです」

 驚いて「なぜ知ってるの?」と聞くと「学校の図書館に『ベルばら』があった」と答えた。

「しかも『読んだ当時はオスカルとアンドレが本当にいると思っていたけどいないんだよね』と言われて切なかった。せめて、と一緒に写真を撮りました」

 日本が誇るべき名作はこれからも世代や国を超えて、愛され続けてゆくに違いない。

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2024年12月30日-2025年1月6日合併号より抜粋

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