見積もりさえ断る事情
特別支援学校を含む公立学校の修学旅行の旅費は、教育委員会から目安や上限が示されるケースもある。そのうえで保護者に経済的負担がかかり過ぎない範囲で、学校が行き先や活動内容、予算などを旅行会社に示して見積もりをとる。
この予算額に「大きな問題がある」と口をそろえるのは大手旅行会社の現場だ。参加生徒数が1桁の場合もある特別支援学校の修学旅行。引き受けたくても難しい状況だという。
大手旅行会社の管理職を務める宮城県の50代男性は、10~15年前から修学旅行の予算が厳しくなってきたと実感する。
「以前と比べてホテル代も交通費も大きく上がっているのに、修学旅行の予算はそれほど変わっていません。少子化の問題と経済動向を見据えた料金設定に改めていただかないと、やれるものもやれないです」
と、もどかしさをにじませる。特別支援学校に限らず、利益が見込めない案件は労力を考えると見積もりすら出せないという。
「1校の見積もりを作るのに、真っ白な状態から作るとしたら1週間ではできません。学校が提示する日程に合わせてホテルや交通機関、食事場所などを探します。そうやって見積もりが出せたとしても、学校側には高くて断られる料金を出すことになる。こちらも赤字で引き受けるわけにはいかないからです。宿や食事会場の仕入れを行うセクションがあるのですが、営業の立場からすると利益の見込みのない案件の見積もりに手間と時間を費やしてもらうわけにはいかないわけです。なので、見積もりからお断りせざるを得ない状況になります」
さらにノウハウの問題もあると打ち明ける。
「特別支援学校の修学旅行は刻み食や車いすへの対応などノウハウがあるかないかで引き受けられる旅行会社は決まってきます。お断りする理由は、予算やノウハウ、参加人数など複合的な要素が絡んでいます」
これまで特別支援学校の修学旅行も請け負ってきた大手旅行会社も、見積もりから辞退せざるを得ない状況にある。特別支援学校に限らず修学旅行は予算がギリギリの場合が多く、この会社で営業職を務める都内の40代男性は、契約後の価格変動で赤字になった案件を何度か見てきた。
「人数が多くても少なくても、1校あたりの手配業務は大して変わりません。300人規模ならお弁当の種類を変えて100円ずつ削るとか、どうにかやりくりしてコストを削ります。ところが特別支援学校のように人数が少なく特別な補助や対応が必要になってくるとなると、果たして予算内でできるだろうかと、厳しい判断になってきます」