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 小児科医のジェギュ(チャン・ドンゴン)と兄で弁護士のジェワン(ソル・ギョング)。ともに韓国の「勝ち組」エリートな二人は、何不自由ない満ち足りた人生を送っていた。が、彼らの子どもたちが起こしたある出来事で運命が狂っていく──。韓国社会のいまを映す予測不可能なスリラー「満ち足りた家族」。ホ・ジノ監督に本作の見どころを聞いた。

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 本作は作家ヘルマン・コッホの世界的なベストセラーが原作です。読んだとき、私がずっと関心を寄せてきた人間の二面性について、また韓国社会が抱える階層的な格差や教育の問題に重なると感じました。すでに各国で映画化されておりプレッシャーはありましたが、勇気を出して映画化に挑みました。

 特にいま韓国で問題になっているのは教育です。本作の主人公・医師ジェギュと兄で弁護士のジェワンには10代の息子と娘がいて、子どもたちは知らず知らず進学のプレッシャーを負っています。実際、韓国の親は子どもがどの大学に進むかにすべてをかけており、それが何よりの優先事項です。なかでも医師と弁護士は多くの人が子どもに望む職業で、例えば幼稚園から医大に進むためのクラスがあるほどです。しかし、そんななかで彼らの子どもたちが事件を起こす。親である兄と弟の信念や道徳的な基準がどう変わるのか? 何が正しいのか? そんなことを本作で問いかけたかったのです。

 実は実体験を反映させた部分もあります。私は子どもをいい大学に通わせようなどと思わない人間だと思っていました。しかしいざ自分の子が中学受験をするとき「大学進学に有利な中学に行くために引っ越しをすべきか?」と考えていたんです! 子どものこととなるといままでの自分の道徳や倫理観が一瞬で崩れてしまう。その恐ろしさを身をもって感じました。

ホ・ジノ(監督)HUR Jin-ho/1963年生まれ。98年、「八月のクリスマス」で長編監督デビュー。代表作に「四月の雪」(2005年)、「ハピネス」(07年)、「きみに微笑む雨」(09年)などがある。17日から全国で公開(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

 韓国だけでなくさまざまな社会問題は「家族第一主義」によって起きているのではと思います。私たちの人生は家族に左右されるべきではないのです。映画を観た人からは、夫婦や友人、親子同士で「自分だったらどうするか」を話し合った、という感想を多くもらいました。ぜひみなさんにも考えてもらえればと思います。

(取材/文・中村千晶)

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