昨年、話題になった「103万円の壁」だが、他にも「106万円の壁」や「130万円の壁」など、境目となる壁がある。見直し議論のポイントを解説する。AERA 2025年1月20日号より。
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103万円の次に現れるのが「106万円の壁」だ。こちらは税制ではなく、「社会保険の壁」となる。
会社員らに扶養されている配偶者は「第3号被保険者(3号)」と呼ばれ、社会保険料を納めなくても老後の基礎年金を受け取れる。だが、(1)従業員51人以上の会社で、(2)週20時間以上働き、(3)月収約8.8万円(年収約106万円)を超す──などの要件を全て満たすと、配偶者の扶養を外れ自分で厚生年金や健康保険の保険料を納めなければならない(学生は除く)。
例えば、年収が106万円に達したとたん厚生年金に加入し健康保険料を払わなければいけなくなり、手取りの目減りを防ぐには、年収が125万円になるまで働く必要がある。そのため「働き損」となり、人手不足に拍車をかけていると言われ、専門家は年収の壁の「本丸」と指摘してきた。
厚生労働省はこの「106万円の壁」を撤廃し、「週20時間以上働く人は原則として厚生年金に入る」というルールに見直す。通常国会での法改正を目指し、26年10月には撤廃したい考えだ。
厚労省の狙いについて、みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介・チーフ日本経済エコノミストは「年金財政の持続性の確保にある」と言う。
「現在、第3号被保険者は約686万人います。この第3号を縮小したいというのが政府の考えです」
実際、106万円の壁が撤廃されることで厚生年金への加入者は約200万人増える。そして、例えば、年収117万円で20年間厚生年金に加入すると、老後の年金額は国民年金と合わせて年約92万円と、国民年金だけの時に比べ年約12万円多いことになるという。
「年金財政を所管する厚労省とすれば、年金財政の持続性を担保する責任があるので、なるべく多くの人に厚生年金に入ってもらい保険料を払ってほしいと考えています」(酒井氏)
だが、どうなるかわからない未来より、現在の手取りが減るのを心配する人は少なくない。
「将来何歳まで生きるのか明確ではないので、老後にもらえるお金を増やすより、いま損したくありません」
と話すのは、フリーのキャリアコンサルタントとして働く都内の女性(52)。