客の依頼で気づく需要も多い。例えば、タワマン住民からの依頼。大きいドラム式洗濯機を買いたいが、洗濯機置き場の上の設置棚が邪魔──。
「同様の依頼が数件続いたので、これは求めている人が他にもいると、事例をホームページで紹介しました。その後、問い合わせがかなりありました」
戸村さんは、代行業はポテンシャルがある事業だと考えている。困りごとはどこにでもあるからだ。全国展開だけでなく、海外展開も視野に入れている。
「退職代行を使われると本当に悲しいですよね」
こう言うのは、採用して1カ月の従業員に退職代行会社を通して退職された経験がある「退職代行モームリ」代表の谷本慎二さん。
「退職代行を使われる企業側に必ずしも非があるとはいえない。ただ、労務環境が悪いところ、辞めたくても辞められないところがあるのは確か」
累積利用者1万5934人の調査では、モームリを20回以上利用された企業の全てが従業員数1千人以上で、1社で64回利用された企業もあった。某大手人材派遣会社で働いていた人では、辞職を申し出たところ「派遣先に言って」「派遣元に言って」の堂々巡りになった、というケースも。
逃げ癖つきかねない
公認心理師の潮英子さんは「体力、身体、時間の面からできないことがある人が依頼できるサービスがあることはとてもいい」と述べ、さらに続ける。
「退職や謝罪などで代行業を利用するのは、現実から逃げ過ぎているのでは、と思うところも。心を病むぐらいなら代行業に頼るのも手です。しかしそこで終わらせるのではなく、何が問題だったかを見直すことが大事。そうでなければ、嫌なことがあれば逃げ出せばいいや、という逃げ癖がつきかねない」
謝罪代行を請け負うある業者は「『上司のふりして謝ってくれ』といった謝罪代行の依頼では、上司の個人情報を全て頭に入れ、時には架空の上司像を作り、上司になりきって謝りまくります。しかし内心では『他人にお願いして謝ってもらうなんて、まともな人間にならないよ』と複雑な気分ですね」。
少子高齢化の現代において代行業は必要不可欠な存在。一方で、付き合い方によっては……という部分もあると感じた。(ライター・羽根田真智)
※AERA 2025年1月13日号より抜粋