東京タロット美術館では入館時にカードを1枚引き、館内を巡りながら自己との対話ができるようになっている
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 タロットというと占い方法のひとつという印象があるが、コロナ以降世界的に大きな注目を集めている。西欧のみならずアジア圏でもタロットイベントが開催され、いまや占いからコミュニケーションツール、そしてアートまで領域を広げている。その前線をリポートする。

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外出自粛の3年間は、我々の意識を内面に向かわせた

「コロナ禍を経てタロット市場が拡大しているのは間違いありません」とは東京・浅草橋にある「東京タロット美術館」の館長・佐藤元泰さん。タロットカード卸会社の老舗・ニチユー株式会社が経営する美術館で、2021年のオープン以来、3年間で来館者は6万人を超えたという。

「“巣ごもり”で家の中で過ごす時間が増え、SNSやYouTube、オンライン講座を通じてタロットに興味を持つ人が増加しました。とはいえ、単純にタロット人口が増えているというよりも、より多層的になっている印象です」

 来館者は占い師が1割、YouTubeやSNSでタロットに興味を持った人が3割、アートとして興味を持つ人が3割、残りの3割は自己探求など別の目的を持つ人だという。名称を「東京タロット美術館」としたのも、タロットが従来の占い好きの枠にとどまらず、一種のアートとして、あるいは自己対話のツールとして、一般層に新しい広がり方をしていることを受けてとのこと。

「コロナ禍のあの時、我々はどうしようもない理不尽・不条理を体験しました。生きることとは何か、どう生きるかを考えました。タロットカードを単純に未来を占う道具としてではなく、自己との対話や人生の意味を考えるためのツールとして捉える人が増えています」

鏡リュウジの実践タロット・メソッド『タロット技法事典』(朝日新聞出版)

 タロットでの自己対話とは、いったいどのようになされるのか? 

 例えば、リストラされて落ち込んでいる人が、カードを引いたところ〈死神〉が出たとする。〈死神〉は死と再生を意味するカードだ。そのため、「この挫折の経験は、新たに再生するためのきっかけなのかもしれない」と考えを変えることができる。「リストラ」という出来事を〈死神〉のカードの観点で考えることで事象を定義し直すことができる。

 コロナ禍は、私たちの意識を内面に向かわせた。様々な不安や理不尽に向き合う際に、タロットというツールは非常に魅力的に映ったに違いない。

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