「妻よ」と呼びかけながら、東日本の地を尋ね回る一羽の雄鶏の物語。『夕凪の街 桜の国』の漫画家の最新作だ。
 1ページに繊細なスケッチ1枚と雄鶏のつぶやきが載る。消えた妻を捜し、3年、4年をかけ2度、3度と大震災の被災地を訪れる。夏草が茂る線路や「釜石市役所」のステッカーが貼られた元ピザ屋のバイクなど、何気ない「日常」が切り取られる。フーテンの寅さんを思わす雄鶏のキャラが、とぼけた面白みに哀歓を醸し出す。「妻」は巨体で、怒らせると怖い存在でもあるらしい。明言はないが、原子の力を宿した金色の怪鳥を想像させるのが著者のすごいところだ。
 外在者の眼による定点観測の手法は新鮮で、こうした「あの日」の伝承の仕方もあるのかと驚かされる。続けてほしいし、読み続けてもいきたい。

週刊朝日 2016年8月19日号

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