ゆずき・あさこ(左):作家。2015年、『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。主な作品に『ランチのアッコちゃん』など/のん:俳優・アーティスト。音楽、映画制作、アートなど幅広いジャンルで活動している。2024年、第16回伊丹十三賞を受賞(写真:加藤夏子)
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 柚木麻子さんの同名小説が原作の映画「私にふさわしいホテル」が27日から全国公開。主演を務めるのんさんと柚木さんが語り合った。AERA 2024年12月23日号の記事より。

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――のんさんは今年9月、「困難を乗り越え自由な表現に挑み続ける創作活動」が評価され、第16回伊丹十三賞を受賞した。自分を信じて突き進む姿は、劇中の加代子とも重なる。

柚木:のんさんの作品はいっぱい観ているんですけど、目がすごく楽しそうでキラキラしているところが素敵ですよね。生きる喜びに溢れているマジのオタクを演じるのが本当にお上手だと思っていて。時代や世界を変えちゃうんじゃないかって求心力をいつも感じています。

のん:ありがとうございます。唯一無二の役者になることは私にとって重要なことなので、受賞もすごく嬉しかったです。「好きに純でいること」は大事にしているかもしれないですね。五感を開いて皮膚感覚を研ぎ澄ませてやらないと、実感を伴って演技ができないので、自分の感覚をオープンにして生きていかないといけないと思っています。

想像力に蓋をしない

 これを捨てて順応すればきっとうまくいくんだろうな、ここを削っていけばステップアップできるんだろうなと気づいたこともあったんですが、それをやると五感や皮膚感覚がどんどん閉じていって才能が死んでいくなと思ったんですね。だから、なんにも捨てずに大人になっていくというのをポリシーにしています。

柚木:素晴らしいですね。私はニュースを見ていると、もうだめだこりゃみたいなことがいっぱいあって……。頭の中で自分なりのハッピーエンドを考える癖がついていて、たとえばトランプとハリスの間にもう一人いたら、その人が勝つんじゃないかとか、架空の人物を考えちゃう(笑)。

 なんとかして世の中がよくならないかなと思った時、空想の力でないものを考える以外、私は方法を知らないんですよ。それを周りに言っていると、すでに実在していたり実現したりすることがよくあるんです。山の上ホテルの存続も案じていたんですけど、明治大学が買うと聞いて、「ハッピーエンド来た」と思いましたもん。たまにはそうやって想像を超えてくるいいこともワクワクすることもあるし、「こんなこと人に言ったら笑われるかな」「絶対無理だよな」と思わずに、想像力にあんまり蓋をしないでいいのかなって。

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その場所が悩んでいる人に寄り添って、味方をしてくれると思う