90歳を迎えた今も現役医師として週4日高齢者施設で働いている折茂肇医師。加齢に伴って徐々に認知機能が低下していくことを心配する人も多いが、折茂医師は「個人的な見解であるが、加齢に対応するための脳の適応現象の一つとして、認知機能の低下は起きると考えている」と語る。
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折茂医師は、東京大学医学部老年病学教室の元教授で、日本老年医学会理事長を務めていた老年医学の第一人者。自立した高齢者として日々を生き生きと過ごすための一助になればと、自身の経験を交えながら快く老いる方法を紹介した著書『90歳現役医師が実践する ほったらかし快老術』(朝日新書)を発刊した。同書から一部抜粋してお届けする(第12回)。
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がんとともに高齢者が心配することが多いのは、認知機能の低下、さらに認知症だろう。しかし、加齢に伴って徐々に認知機能が低下していくのはある程度、自然なことだ。若くして認知症になるのは明らかに病気といえるだろうが、それと超高齢者における認知症とは異なるものだと思う。
あくまで個人的な見解であるが、加齢に対応するための脳の適応現象の一つとして、認知機能の低下は起きると考えている。
年をとると、身体的にも精神的にもつらいことが多くなる。高齢者にとって乗り越えなければならないのが「喪失体験」だ。喪失体験には、病気や身体機能の衰えによる「健康の喪失」や、財産や金銭に関わる「経済的な喪失」、離婚や死別といった別れによる「人的喪失」、定年や退職などによる「社会的役割の喪失」がある。つらいこと、嫌なことはすぐに忘れ、記憶にとどめないことが脳をストレスから守り老化させないためにも重要で、人生を生き抜いていく適応現象なのだと思う。
バランスド・エイジング(Balanced asing)という概念がある。加齢とともに脳の神経細胞が減少するので高齢者が物忘れをするのは仕方がないが、人としての人格・情動機能がある程度保たれていればQOL(生活の質)の高い幸せな生活を送ることが可能であるという考え方である。