事件2日後に病院に行った際の診断書。「顔面打撲・挫創、頚椎捻挫」により10日間の安静が必要と言われた

今でも「とにかく暗闇が怖い」

 特に悩まされたのは、左胸の痛みだ。「肋骨(ろっこつ)にひびが入っているのでは?」と病院でエックス線検査を受けても異常は見つからず、頭痛や目まいもあったため心療内科を受診すると、強い不安感による心因性の心臓痛、つまり事件直後のASD(急性ストレス障害)だと診断された。

 胸の痛みは数カ月かけて癒えていった。だが命の危険に直面した恐怖は、今でも“トラウマ”として刻み込まれているという。

「とにかく暗闇が怖いんです。事件以前は実家の離れで生活していましたが、夜に庭を数メートル歩くことさえ難しくなって、母屋で寝起きするようになりました。背後の気配にも敏感になって、昼間人が大勢いる新宿の大通りでもちょこちょこ振り返って確認してしまうし、今も夜道で後ろから人が歩いてくると、立ち止まって先に行ってもらいます」

 自身を襲った強盗犯は、事件から6年がたった現在もまだ捕まっていない。そして、高額報酬をちらつかせて犯罪の実行役を募集する“闇バイト”の広がりもあり、悪質な強盗事件は連日起きている。

 強盗のニュースを見るたび、「被害者はどれだけ怖かっただろう」と、つらい気持ちになるという近藤さん。同じ経験を持つからこそ、被害に遭った人に伝えたいアドバイスがある。

「私は、事件後すぐに仕事に復帰してしまいました。家に引きこもっていたら余計にふさぎ込むかなと考えての判断でしたが、集中力が続かず思考もあちこち散らばる、ふわふわした精神状態が数カ月続きました。タスクを計画どおりこなせなかったり、考えられないようなミスをしたりして、自己嫌悪にも陥る始末。事件のダメージというのは想像以上なので、心身を休めて回復させる時間が必要だったなと思います」

 被害者の声を社会で共有し、危機意識を高めることが、自分の身を守る第一歩なのかもしれない。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

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