きのした・ゆういち/1985年、和歌山県生まれ。木ノ下歌舞伎主宰。京都造形芸術大学在学中に古典演目上演の補綴・監修を自ら行う木ノ下歌舞伎を旗揚げ。2016年度文化庁芸術祭賞新人賞など受賞多数。24年からまつもと市民芸術館の芸術監督団長(撮影/写真映像部・馬場岳人)
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 AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【写真】歌舞伎の舞台となる土地を訪ねる『物語の生まれた場所へ』はこちら

 『物語の生まれる場所へ 歌舞伎の源流を旅する』は古典芸能作品の補綴や監修の第一人者でもある著者・木ノ下裕一さんが、歴史と伝説というフィクションを併せて読み解きながら「物語の力」について考察する秀逸な「物語論」だ。歌舞伎の名作の舞台となっている土地を訪ね歩き、その物語がどのようにして誕生してきたのかを探る新しい紀行文集でもある。人は生きるのになぜ物語を必要とするのか。物語がもつ危うさやその先にまで届く眼差しは鋭くあたたかい。著者の木ノ下さんに同書にかける思いを聞いた。

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 歌舞伎の古典演目を現代演劇に読み解く木ノ下歌舞伎。人気歌舞伎役者中村七之助丈もハンカチを握りしめ観劇したエピソードでも知られる「勧進帳」では、トランスジェンダーの俳優による義経にアメリカ人芸人が演じる弁慶の登場などで観客は魂を鷲掴みにされたものだ。この木ノ下歌舞伎の主宰木ノ下裕一さん(39)が「紀行文と歌舞伎の作品論のハイブリッド」として上梓したのが『物語の生まれる場所へ 歌舞伎の源流を旅する』である。

「菅原伝授手習鑑」では「民衆の切実な願いが結晶化した天神伝説」の地を、「義経千本桜」では「壇ノ浦で死んでいった者たちを弔う平家伝説」の地を、「摂州合邦辻」では「病と死と差別の苦しみが貼りついた俊徳丸伝説」の地をと巡り歩いた。旅はほかにも「夏祭浪花鑑」「女殺油地獄」「東海道四谷怪談」などがある。

 歌舞伎のこの物語がなぜこの土地から誕生してきたのか、人はなぜこの作品の伝説を求め続けてきたのか。アニメの聖地巡礼のようには軽くない。著者の視線と想いは地政学的歴史学的物語論的に彷徨する。歴史とフィクション、虚と実を等価値とみなして旅していくのだ。同時に人にとって「物語」とはなにかをあらためて問いかけてくる。

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