『デア・デヴィル』ペーター・ブロッツマン
『デア・デヴィル』ペーター・ブロッツマン

 ユーロ・ジャズでこれまでに取り上げたのは「第47回『ヤーパン・ヤーポン』ミシャ・メンゲルベルク&ICPオーケストラ」にとどまる。推薦盤でやっと2作目というわけだ。スティーヴ・レイシーほかの移住組を含めると作品数は結構あるが、当地出身者に限ると1970年から91年までは17作しかない。15作を選外としたわけで、うち11作がフリー/インプロ系というのが効いた。詳細は【ユーロ・ジャズ選外リスト】に譲るが、最多は入手難の7作、6作がフリー/インプロ系だ。枚数の限られた自主制作盤とくれば無理もない。次に、日本以外での録音と組み合わせたコンピが3作、入手難と重複するが複数年の録音からなるコンピが1作あった。前者の1作を除いてフリー/インプロ系だ。思うに、一発勝負だからこそ出来を優先するとコンピに仕立てる確率が高くなるのでは。「名盤」に届かず見送ったのは5作だ。ともあれ、2作目を取り上げられてありがたい。

「サックス界のヘラクレス」ことペーター・ブロッツマンの初来日は1980年4月、ハン・ベニンク(ドラムス)とのデュオ・ツアーだった。以来、2015年4月までに、確認できただけでも15度は来日している。「ほぼ毎年のように来日して」という紹介は大げさではない。大の親日家に育て上げたのは、一部とはいえ熱烈な支持者たちだろう。日本での録音もリーダー作が6作にサイドマン作が3作ある。リーダー作の2作を除いてライヴ録音だ。推薦盤は1991年9月の来日時に「新宿ピット・イン」で録音された。このときは推薦盤に参加している羽野昌二(ドラムス)の招きでデュオ・ツアーを行い、翌日にはデュオ・ユニット「Funny Rat」の第一弾『Funny Rat』をライヴ録りしている。推薦盤で共演している羽野、山内テツ(エレクトリックベース)、郷津晴彦(ギター)は1985年から90年まで即席作曲的即興演奏ユニット「OPE」として活動していた。

 即席作曲的とくれば結果的に全5曲が全員の合作だ。《インプロヴィゼーション#1》《#2》などとしても間に合いそうだが、それぞれに気の利いた曲名が付けられている。

《デア・デヴィル》で幕開け。鉈(なた)の感触を放つ郷津のギターがいなたいリフで切り出す。酔漢の囃子詞も交じえ村祭りの趣きに。テンポを上げ、羽野、ブレッツマン、山内が合流すると、命知らずの一党は地獄の底めがけてまっしぐら。ノリノリの爆演だ。

《ウィ・マスト・ビー・スロウ》は、確かにスロウで。山内の地鳴りする導入部に続きブロッツマンが懊悩と煩悶の美メロを繰る。テンポを上げると一党は破壊工作に向かい、郷津のノイズ三昧を挟み阿鼻叫喚の修羅場に。構成の妙で20分弱を飽かせない力演だ。

《ストリート・コーナー・カレッジ》とは辻音楽師か? ブロッツマンが前面に立ち、ゆったりしたテンポで沈鬱な心情を吐き、叫び、繰り言を並べる。終盤にテンポを上げて周りも本格参戦、各員奮闘のあと山内が地底を駆けブロッツマンが静かに終止符を打つ。

《ボクサーズ・ヒット・ハーダー・ホエン・ウィメン・アー・アラウンド》とはいいね。誰だって張り切る。のっけからブロッツマンはパワー全開、集中力と交感力も半端なく、矢でも鉄砲でも持ってきやがれ!である。終盤のファンキー調も楽しい当夜のベストだ。

 ラストは《ウィ・メイ・オール・ゴー・ホーム・ナウ》、さもありなん。アイラー風の詠唱を経て集団即興がひとしきり。中盤にテンポを上げると全員一丸となって爆走するが不意に切断、やがて終演と気付いた聴衆の歓声が湧く。みんなすぐに帰ったのだろうか。

 ドシャメシャのフリー・インプロではない。そのときどきで変化するもののビートにも音の強弱にも約束事がある。そのうえでブロッツマンや郷津が奔放に翔けまわるわけだ。それもこれも羽野と山内がいればこそ。羽野の原始のDNAを目覚めさせるドラミングと山内の奇矯なラインと重量級グルーヴに感じ入った。優れた共演者を得たブロッツマンが遠く長い道を狂気をはらんだ形相で猛々しく駆け抜ける前衛エンターテインメント作だ。手頃な価格では入手できそうにないが、たまには骨のある演奏にぶちのめされてみては。

【ユーロ・ジャズ選外リスト】
C'est Tout/European Jazz All Stars (Far East/70.8.18,19) *1
Diggin'-Live at Dug, Tokyo/Albert Mangelsdorff Quartet (TBM/71.2.15) good
Misty Burton/Ann Burton with the Kenny McCarthy Trio (Epic/73.3.16) good+
Sabu Brotzmann Duo/Peter Brotzman-Sabu Toyozumi (Improvised Company/82.5) *2
To Whom It May Concern/Evan Parker (Alleopathy/82.11.28,85.11.13) *2,3
Zanzou/Evan Parker (Jazz & Now/82.11.30,12.7,12.10) *1
Assist/Barry Guy (Jazz & Now/85.11.9,12,21) *1
Tai Kyoku/Evan Parker & Barry Guy (Jazz & Now/85.11.9,21) *1
The Jacques Loussier Trio Play Bach Live in Japan (London/86.11.4) *1
Sins 'n Wins 'n Funs/George Gruntz Concert Jazz Band (Swi-TCB/88.10.21) *4
Live in Japan/Valentina Ponomareva (UK-Leo/89.4.5,7,8) poor
Jikan to Kuukan/Nachtluft (Jazz & Now/89.7.13) good+
Stephane Grappelli in Tokyo (Denon/90.10.4) so-so|fine-
Show-Down/Wadi Gysi & Hans Reichel (Swi-Intakt/90.12.11) *5
Stop Complaining, Sundown-Hans Reichel Duets with Fred Frith and Kazuhisa Uchihashi (Ge-FMP/91.1.25) *6

1: hard to find, analogue only.
2: hard to find, limited edition.
3: 1 title in '82, 2 titles in '85.
4: 1 title in Tokyo, 10 titles around the world.
5: 2 titles in Tokyo, 8 titles in Zurich, 1 title in an unknown place.
6: 1 title in Kobe, 1 title in Berlin.

【収録曲】
Dare Devil/Peter Brotzmann

1. Dare Devil 2. We Must Be Slow 3. Street Corner College 4. Boxers Hit Harder When Women Are Around 5. We May All Go Home Now

Peter Brotzmann (ts, tarogato on 2, bcl on 3), Shoji Hano (ds, per), Tetsu Yamauchi (el-b), Haruhiko Gotsu (g).

Recorded at Shinjuku Pit Inn, Tokyo, on October 9, 1991.

【リリース情報】
1992 CD Dare Devil/Peter Brotzmann (Jp-DIW)

※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。