東京都江東区にある終活スナック「めめんともり」のママを務める村田ますみさん(右)。筆者が訪れたときも、落ち着いた雰囲気の店内で、会話が弾んだ(撮影/写真映像部・上田泰世)
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 若い世代にも「終活」への関心が広がっている。「最期の舞台」こそ自分らしく──。そんな今どきの死生観から見えてくるのは、死に方と向き合いながら生き方を捉え直すポジティブな思考だ。AERA2024年12月2日号より。

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 てっきりおしゃれな洋服ダンスだと思った。が、よく見るとそれはれっきとした棺桶(かんおけ)だった。東京都の会社員、真鍋沙織さん(39)の寝室兼仕事部屋に立てかけられた全面ピンクの棺桶は、間違いなく部屋の中で最も強い存在感を放っていた。

「白にしようかなとも思ったんですけど、この先、年齢を重ねると肌もくすんで白が似合わなくなるかなと。このピンクは肌のくすみを目立たなくしてくれるはず。すごく気に入っています」

 真鍋さんは今年6月、「30代が終わる記念」として誕生日に棺桶を購入。棺桶は、デザイナーの布施美佳子さんが立ち上げたオリジナル葬儀ブランド「GRAVE TOKYO」の作品だ。終活スナック「めめんともり」(東京都江東区)の店内で見つけて一目ぼれした。

「見た瞬間、『最期の姿にぴったり』と思い、夫と息子の理解も得られたので購入しました。この棺桶を軸に自分のお葬式をイメージできます」

 真鍋さんは、今年4月に東京の渋谷ヒカリエで6日間にわたって開催された「Deathフェス」の実行委員の一人。「死」をテーマに語り合うこのイベントには2千人を超える来場者が訪れ、大きな反響を集めた。

死ぬ時を起点に考えた

 終活に興味を持ったきっかけは25歳の時。大手食品会社に就職して3年目。パート従業員を多く抱える職場のリーダーになり、「私がいないと、この職場は回らない」という責任感が膨らんだ。腹痛を感じながらも仕事を続けた結果、盲腸が重症化し、腹膜炎で8時間に及ぶ緊急手術を受けた。入院中、見舞いに来た同僚のパート女性に、「あなた、死にかけたのよ」と泣かれ、「もっと自分を大切にしなければ」とわれに返った。

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終活の第一歩