
スーパーカブは「別格」
モータージャーナリストの大屋雄一さんは、原付き1種のバイクのなかでも、スーパーカブ50は趣味性の高さにおいて「別格」だという。
開発当時、専務の藤沢武夫氏は「誰でも扱えるようなもので、特に女の人が乗りたくなるようなバイクがほしい」と、社長の本田氏に注文をつけたという。
シートの高さを抑えた乗り降りのしやすい車体のレイアウト、泥がはねてもスカートが汚れにくい大きなフロントカバー。
乗る人を選ばない使い勝手のよさは、「機能美」としてバイクらしくない、全く新しいスタイリングを生み出した。バイクといえば「男の乗り物」だったころ、ジェンダーレスの時代を先取りしていた。
「20代、30代の女性は『あの形が好き』という人が多い」(大屋さん)
モデルチェンジを繰り返しても基本デザインは70年あまり変わらない。遠くからでも一目でわかる。
スーパーカブ50「ファイナルエディション」も大人気で、「コレクターズアイテムとして、買っても乗らないでとっておく人がいるでしょう」(同)

原付き1種は「絶滅危惧種」
総排気量50cc以下の「原付き1種」バイク、いわゆる「原チャリ」は、取得が比較的容易な「原付き免許」や普通自動車免許で運転できるため、多くの人の日常の「足」として使われてきた。ピークの82年には年間278万台が出荷された。
だが、2005年ごろから電動アシスト自転車の普及にともない、原付き1種のバイクの販売は減り続けてきた。昨年には、出荷台数は9万2824台と、ピークの約3%まで減少した。
いっぽう、電動アシスト自転車は運転免許が不要、幼児2人の同乗が可能、一方通行の道路も走行できる。価格は原チャリの半額程度だ。09年には、電動アシスト自転車の販売台数は原付き1種バイクを追い越している。
原付き1種バイクの大口の需要だった郵便や新聞の配達用バイクは電動化が進みつつある。最近、都内を走る郵便配達用バイクのほとんどは電動のホンダ「ベンリィe:プロ」だ。

スーパーカブ50に駆け込み需要
そんななか、スーパーカブ50に駆け込み需要が発生している。
日本自動車工業会によると、今年度上半期の原付き1種のバイクの出荷台数は4万8941台で、前年度同期比で9.1%増加した。スズキ、ホンダ、ヤマハの各バイクメーカーを取材したところ、増加した台数の大半がホンダの製品であることがわかった。
「ただ、駆け込み需要といっても、生産を増やせる台数は限られています。受注に応じて可能な範囲で生産を調整して、販売店様にお届けしています」(森口さん)
